青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―


「残念だったな。ケイはヨウの舎弟だ。それは変わらない。ケイ、行こう」


大パニックになっている俺に気付いてくれたのか、シズが軽く声を掛け背中を叩いてくれた。


早足で階段を上り始めるシズに置いて行かれないよう、俺もテンパりながら早足で歩いた

。歩き方がおかしいような気もするけど、テンパってるからよく分からない。


なるべく視線を合わせないよう、目を逸らしながら日賀野達の脇を擦り抜ける。

もう一段ある階段に足を掛けた次の瞬間、ブレザーの襟首を引っ掴まれて俺は後ろへと逆戻り。


「ケイ!」


シズが体ごと振り返ってきてくれるけど、


「話くらい良かろうもん」


若葉色の不良がシズに立ち塞がる。荒々しくシズは舌打ちをかましていた。


一方、俺はというと、めっちゃ情けないことに固まっていた。

弁解になるかもしれないけどさ、ヨウと肩を並べる最強最悪の不良が、俺のトラウマが、至近距離にいるんだぜ。


この状態は密接っていうの?


とにかく俺と日賀野の距離が近い!

固まるほか、どうリアクションを取ればいいか分かんないっつーの。


「おいおい。ツレネェじゃねえか」


左肩に腕を置いてくる日賀野に、そこは勘弁してくれと泣きたくなった。

そっちの肩は怪我してるんだよ。

マジ、腕を置かれるだけでも痛ぇんだって! 頑張って顔には出さなかった。出せばいいように弄られるだろうから。


「シカトすんなって。お前と俺の仲だろ?」

「あはは……あの時はボコして下さりどーもです」


「まだボコしたこと根に持ってるのか? あれも一種のコミュニケーションだろ、なあ?」


嫌なコミュニケーション!

経験したコミュニケーションの中でイッチバン最悪だったぞ!


「それで? 舎弟の件、考えてくれたか」

「確かそれ。一ケ月程前にお断りした記憶がっ……」

「だから考える猶予をやっただろ。言った筈だぜ、今度は良い返事を期待してるって、な」


「イッ―――!」


「ケイ!」


シズの呼ぶ声が聞こえたけど、それに応える余裕はない。

だってこいつっ、重傷を負ってる左肩に全体重を掛けてきやがった。


明らかに故意的。

日賀野は俺の左肩の怪我を知っているみたいだ。


「肩に何かあるのか?」


白々しい台詞を吐いてはニヤついてくる日賀野を思いっ切り睨み付けてやりたいけど、容赦なく体重を掛けられる左肩が疼いて仕方がない。肩が燃えているみたいに痛い。


「いじめるのは良くない」


日賀野の行動を止めたのは意外にも奴の仲間不良のひとり。

やんわりとした口調で制してくる女不良の言葉にも、「可愛がってるんだよ」日賀野は笑声を漏らした。

何が可愛がっている、だあ? コンチクショウ! 俺の反応を楽しんでいるだけだろ。


「ヤマト。そっちがその気なら……こちらも遠慮はしない。退け、アキラ」


シズは自分の前に立ち塞がる若葉色の不良を見据えていた。

アキラ、今、あの不良のこと、アキラっつったか? ということはあれが魚住昭。ワタルさんの親友だったっていう不良か。

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