青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
俺の家は響子さんと別れたバス停から徒歩15分先のところにある。
日賀野達との一件を忘れるように他愛もない会話を飛び交わせながら、俺達は家へと歩いた。
田山家は住宅街の一角にひっそり息を潜めている。一軒家なんだ。俺の家って。
緩やかな坂を上ると我が家が見えてくる。
残念なことに新築じゃない。古いわけじゃないけど、それなりに年期の入った平屋建ての一軒家。どこにでもありそうな一軒家だ。
家に着くと、早速ヨウとシズは揃って俺の家を見上げて人の家を観察し始める。
「でけぇな」とヨウ。
「一軒家。羨ましい」とシズ。
二人とも住まいは一軒家じゃないらしい。
興味津々に我が家を観察している。人の家って興味が出るよな。分かるわかる。俺もそうだもん。
でも俺の家はなあんにもないぜ。期待されても困るぞ。
車庫にチャリを置いた俺は二人を連れて玄関へと向かう。
引き戸式の玄関に立つと向こうから騒がしい声が聞こえた。そりゃもう立っているだけで此処まで声が聞こえてくる。
俺は片眉をつり上げて、くるっと二人の方を向く。
「ヨウ。シズ。我が家はめっちゃ煩いからな。それだけは覚悟しておいてくれよ」
キョトンとした顔で二人は俺を見てきた。
「泊まらせてもらうんだ。文句ねぇよ」
「ふぁ~……ヨウの言うとおりだ」
二人は快く承諾してくれたけど……分かっていない。
我が家の騒音とも言うべき煩さを。騒がしいのなんのって半端無いぞ。
俺は取っ手に指を引っ掛けて扉を引く。
ガラガラ。扉の引く音と一緒に「ただいま」と挨拶、二人を中に招き入れて扉を閉め、鍵を掛けているとバタバタバタと足音が聞こえた。
早速来たか。
けたたましい足音を鳴らしてやって来たのは俺の弟、田山 浩介(たやま こうすけ)。
小5で五歳離れている。兄弟だけあって顔立ちは俺に似てる。
纏っている雰囲気も地味オーラムンムン。
兄弟揃ってクラスの中では地味日陰組に入っているんだ。
ゲーム機片手に俺のとこにやって来た浩介は、
「兄ちゃん! 遅いよ、どうして早く帰って来てくれなかったの!」
その場で地団太を踏む。
「お前なぁ」
帰って来て早々なんだよ。
憮然と溜息をつくと、「僕は困っていたのよ」意味深に眉根を寄せ、自分の右頬に手を添えた。口調がオネェに変わる。
お……おい、まさか浩介。
「あらやだお兄ちゃん。もう八時半なのに、僕を置いてこんな時間までどこで道草を食ってたの? いけないお人。僕、ボスステージまで行って、どうすればいいか分からず、困っていたっていうのに」
ぶりっ子口調で体をくねらす我が弟。
おまッ、友達がいる前でそのノリをかますか!
見ろよ、ヨウとシズが見事に固まっちまっているだろ!
しょっちゅう泊まりに来る利二の前じゃ(もう慣れているから)やってもいいけど、ヨウとシズは初めて我が家に来たんだぞっ!
お前も初対面だろ!
俺も帰って来たバッカなんだけど!
……ああくそっ、俺もやってやりゃいいんだろ! やってやらないとお前拗ねるもんな! だから、ンな期待した目で俺を見るな!
俺も頬に手を添えてぶりっ子口調をかます。
「あらやだぁ、それはごめんなさい。けれどね浩介ちゃん、兄ちゃん、お友達と大事なおデートに行っていたの。今日は兄ちゃんのお友達が泊まりに来ているから、これくらいで堪忍してくんなまし。母さんにご報告、宜しくできるかしら?」
「ご・褒・美は?」
「ボスステージの攻・略・よ」
途端に満面の笑顔を見せて浩介は元気よく踵返し、バタバタ足音を鳴らしながら居間へと向かう。
「お母さん、兄ちゃんが帰って来た! お友達連れて帰って来たー! おかーさーん!」