青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



嗚呼もう、ほんと浩介の奴。

帰って来て早々恥ずかしいことさせやがってもう。


羞恥と一緒に溜息つく俺に対し、「毎度あんなやり取りしてるのか」ヨウ。「今の……弟だろ?」シズ。


二人とも笑声を必死に噛み殺そうとしていた。



けれど努力は失敗に終わっている。

笑うならいっそ、声に出して笑ってくれ! 真面目にすんげぇ恥ずかしいんだぞ!


俺の顔を見ては笑う失礼な不良二人を家に上がらせて、まずは居間へと向かう。


そこで母さんに泊まりに来たって報告しないと。


にしても、二人ともまだ笑っているし。ヨウもシズも笑い過ぎだって。


廊下を歩いていたら風呂場のドアを閉めている我が父を発見。

父さん……なんでパンツ一丁。

風呂上りなのか体からホッカホッカと湯気が出ている。


我が父は首に掛けているタオルで頭を拭きながら、ゆっくりとこちらを見てきた。そしてニッコリ。


「ああ、圭太。帰ってたのか。後ろの方々はお友達か? こんばんは」

「こんばんは、お邪魔してます」


「今夜、お世話に……なります」


二人は意外と敬語で父さんに挨拶。不良も挨拶できるんだな。


やや戸惑い気味なのは父さんがパンツ一丁だからだ。

でもそこは我が父、能天気に会釈して「寛いでくださいな」と笑っている。


どうでもいいけど、いつまでパンツ一丁で立っているんだよ!


「父さん、頼むからシャツくらい着てくれって! 友達がいるから!」

「ならサービスかな」


胸部を軽く叩き、のほほんと綻ぶ父さんに俺は言葉を失うしかない。

誰が親父の上半裸を見て喜ぶんだい? 父よ。



「そう白眼するな、圭太。シャツが無かったんだ。仕方が無いだろ? それに田山家の中じゃ素っ裸で歩いたって罪にはならないさ。
なにせ、我が家は父さんがルールだからな。お友達さんが我が家を素っ裸で歩いても父さんは許すぞ」


はっはっは、我が家は父さんがルールだ。笑いながら父さんは先に居間と入って行く。


「ケイの父ちゃんってマイペースだな」

「ほんと……にな」


ヨウとシズが変に感心してくれる。あんま嬉しくないぞ、二人とも。 

妙な恥ずかしさに駆られた俺は強く頭部を掻いた後、二人を居間へと連れて行く。


居間にはソファーの上でゲームをしている浩介と、のそのそシャツを着ている父さん、それからテーブル台を拭いている母さんの姿があった。母さんは俺達の出現に顔を上げる。


不良のヨウとシズに驚いた様子もなく(内心では多少驚いていると思う)、いらっしゃいと二人に声を掛けた。


父さんの時と同じように二人は会釈してご挨拶。

母さんは二人に向かってお客様用の優しい微笑を浮かべる。


「圭太から話は聞いているわ。大したおもてなしはできないけど、遠慮なくなんでも言ってね。先にお風呂に入る? あ、ご飯はちゃんと食べた? 夕飯のあまりならあるんだけど。それとも何か飲むかしら? アイスとかお好き? 二人ともお名前は? って、圭太、ぼさっとしてないでお二人に接待してあげなさい! 困ってるじゃないの!」


「そりゃ母さんがいっぺんに質問しているからだって!」


二人だって困るだろ、あんなに質問されりゃさ!


だけど母さんは俺の接待の悪さに二人に詫びている。俺のツッコミは無視してくれている。


取り敢えず二人とも困ってるみたいだから、俺が勝手にこの先の行動を決めさせてもらった。


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