青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



帰ると吠えるタコ沢の足を引っ掛けながら(タコ沢は物の見事に顔面からずっこけた!)、ヨウは全員揃ったかどうか面子を確認する。


まだ全員揃っていないみたいで、ヨウはもう暫く皆が揃うのを待とうと俺達に言った。


学校を終えた俺達は今、近所のスーパー近くの倉庫裏に集まっている。


此処は一週間前に俺とワタルさんが喧嘩した場所だ。

相変わらず倉庫裏は散らかっていてダンボールやプラスチックの箱、軽そうなプラスチックパイプや重量のある鉄パイプ、錆びれた棒鉄なんかが無造作に置かれている。


最初はいつものゲーセンに集まろうという話だったんだけど、日賀野達の目を警戒して集まる場所を移したんだ。


ゲーセンは人の行き交いが激しいし、下手すりゃ俺達の話し合いが向こうに漏れる可能性がある。


人という沢山の情報網を持っている魚住が向こうにいるんだ。

向こうに宣戦布告した以上、こっちだって警戒心を持たないわけにはいかない。


話し合いは行き交いの激しいゲーセンよりも人気の無い場所に移動する方が利口だ。

仮に俺等の話し合いが向こうに漏れることがあっても、誰が漏らしたか特定するのはゲーセンよりかは遥かに容易だ。


ちなみにこれは副リーダー的存在のシズが出した意見。


さすがは副リーダー。先を見越しての意見だ。


普段、どんなに眠そうな顔を作っていてもいざとなると頼りになる。

行き当たりばったりな我等がリーダーと違って的確且つ納得する意見だよ。


いや、口が裂けてもリーダーにはこんなこと言えないけど、こういう時は副リーダーの方が頼りがいがあるよ。マジで。


俺の舎兄は思い付き行動が多いもんな。

タコ沢を仲間に引き入れたのも思い付きだしな。

仲間達はタコ沢は使えるからと異議申し立ては無いみたいだけど大丈夫なのかな、ほんともう。


俺はヨウのこういった思い付き行動が不安で仕方が無い。


何に対しても思い付き浅慮直球型のヨウに比べたら、向こうの頭の日賀野は深慮変化球型。相性最悪だよな。


これから本当に巻き返せるのかよ。

どちらが優勢かというと圧倒的に向こうだというのに。今まで俺達、向こうにしてやられっ放しだったしな。

小さく吐息をついて今此処にいる面子を確認する。 


ヨウに喧嘩を吹っ掛けているタコ沢を合わせて殆どメンバーは来ているみたいだ。

舎兄弟の俺とヨウ。ワタルさんは響子さんとプラスチックの箱に腰掛けて煙草を吹かしているし、弥生はココロと駄弁っている。


シズにいたっては倉庫の壁に背を預けてこっくりこっくり。


なんで立ったままうたた寝ができるんだ? シズ。器用すぎるだろ。


それから……ハジメに視線を向けた俺は思わず目が留まる。

ハジメは何をするわけでもなく、皆からちょっと距離を置いて思案に耽っているみたいだった。


随分と思い詰めた顔をしているな、ハジメ。


付き合いの浅い俺が一目で分かるくらい、ハジメの奴、考え込んでいる。最近よく見るんだ。ハジメのああいう顔。


ヨウから話を聞いたんだけど、日賀野の仲間からフルボッコされた日を境にハジメはああいう表情を見せるようになったんだって。


何か悩みを持っているようなんだけど、本人は俺達に隠したがっているから簡単には聞けないとヨウは言っていた。


持ち前の染めた銀髪を風に揺らしながら、ハジメは倉庫に背を預けて地べたに座って片膝を立てている。


どこを見るわけでもなくただ宙を見つめているようだった。


< 217 / 845 >

この作品をシェア

pagetop