青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ケイは麻雀以外になんか知ってるゲームあるか?」
「えー? テレビゲームばっかだしな俺。ヨウ、そっちのゲームは?」
「分かんねぇな。やってみてぇとは思うけど」
「じゃあ今度俺の家に来いよ。させてやるから」
おばか、俺のおばか。
能天気にそんなことを言っている場合じゃないだろ。
なんで不良さんと友好を深めているんだ。
ヨウが珈琲飲みながら俺に視線を向けてきた。
何となく視線の意味が分かったから、俺は両手を軽く上げる。
「財布は教室。だから買いたくても買えないンデス」
「はあ? マジかよ。財布と携帯は常にポケットに入れておくものだろ?」
「携帯は普段、家に置いてあるんだけど。学校じゃ滅多に使うことも無いし、見つかって没収されたら面倒じゃん?」
「クソ真面目だな。ケイ」
悪かったな。真面目ちゃんで。
俺はメンドー事に巻き込まれたくないんだよ。と、心の中で悪態をついてみる。
心の中の俺は強いんだ。どんな不良サマのお言葉も反論デキちゃうんだからな。
でも、実際の俺。
何も言えていません。言えません。言えるわけありません。恐いから!
断じてチキンではないと思う。不良を目の前にした一般人ならば、誰だって俺のようにすると思うから!
「しゃーねぇな」
ヨウが自販機に小銭を入れ始める。
俺が止める暇もなく、適当にボタンを押すとヨウは自販機から紙パックを投げ渡してくる。
どうにか紙パックをキャッチして、ヨウに礼を言うとパックに目を落とした。
豆乳。
何故、豆乳?
おもむろにストローの袋を開けて、ストローを飲み口に刺す。
そのまま豆乳を一口飲んで、思わず歌いたくなる。
「豆乳はー歩いてこない。だから毎日飲むんだねー」
「ククッ。一日一本。三日で三本って、その後歌うつもりかよ」
「……って! それは一昔前の牛乳のCM! ツッコんでくれよ! しかも、何で豆乳だよ!」
「カラダには良いぜ?」
そりゃカラダにはイイよ? イイけど、豆乳って。豆乳って。
奢ってもらっている身分だから、あんま文句は言えないけどさ。
どーも、俺、からかわれているような気がしてならないんだよなぁ。
豆乳を飲んでいるとヨウが顎で前をしゃくってくる。
場所を移動するって意味なんだろうな。
素直に頷いて俺はヨウの隣に並んで体育館裏に移動する。
体育館裏っつったら、昨日ヨウに呼び出しを喰らった場所。
イイ思い出はないんだよなぁ。
昨日の記憶が鮮明に蘇ってくる体育館裏に着いた俺は、ひっそりと溜息をついた。
階段のとこに座って俺達は適当にたむろする。
体育館裏は風通りが良くて気持ちいい。
しかも階段から空を仰いだら、高くて遠い遠い空が俺達を見下ろしていて居心地がイイんだ。
俺、結構、体育館裏好きになりそうかも。
体育館から聞こえる生徒達や教師の声をBGMにしながら、俺は飲み終わった豆乳のパックに空気を入れたり逆に吸って空気を抜いたりして遊ぶ。
ヨウも眠いのか、それともダルイのか。飲み終わった珈琲のパックを地面に置いて大きな欠伸を一つ零して目を閉じていた。
頭の後ろで腕を組んで壁に寄り掛かって目を閉じているヨウを、俺はチラッと一瞥する。
ヨウは寝ているみたいだ……俺、ヨウの舎弟なんだよなー。