青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「お前が陰で努力していることを。俺っち、お前のそんな姿知っているからお前を推すんだ。まだ会って間もないけど、俺っち、お前の方が相応しいと思う。
確かケイさんでしたっスよね。
部外者の俺っちが言うのもなんですけど、悪いとも思いますっスけど、俺っち、貴方をヨウさんの舎弟だなんて認めません。モトを全力で推しますっス!」
なんか、キヨタって嵐のように人間関係を掻き乱すヤツだけど、友達想いだし、それなりに的も射ているよな。
俺自身も思っている。
喧嘩のできない俺より、喧嘩ができている上にヨウを尊敬しているモトの方が相応しいことを。俺には大層な力がない。
ヨウだって分かっていると思う。
はっきり言って足手纏いだ。
それも自覚はしている。しているんだけど。
俺とヨウは約束を交わしているんだ。いけるところまでいこうって。成り行きで舎兄弟になった俺等だけど、このままでいくって約束しちまったから。
「き、キヨタ」
モトは、別にいいんだとしきりに首を横に振っていた。
これはヨウが決めたことだから自分はどうこう言うつもりはない。
確かに不満その他諸々はあるけど、自分が口を出すことじゃないからって。
そう言うモトの顔はすんげぇ暗かった。
モト……やっぱお前、ヨウの舎弟になりたかったんじゃ。
お前、何だかんだ言ってもヨウのことを尊敬しているもんな。
初対面なんて俺を試すかの如く喧嘩を売ってきたしな。
あれ以降から、喧嘩は売られていないし、それなりに仲良く(って言っていいのか?)もしてくれているけど、モトの心の何処かでは……キヨタはモトの態度に憮然とした。
「なんでモトはそんなに尻込みするんだ? 俺っちなら、努力してでも舎弟の座を狙うのに。モト、ワケ分かんねぇって」
「だ、だからオレは!」
「――分かった、モトにその気がないなら、俺っちが立候補する。俺っち、ヨウさんの舎弟になりたいっス!」
また突拍子もない宣言だな!
キヨタのハチャメチャ宣言に俺達三人揃って絶句。
「候補ってテメェ」ヨウはキヨタを指差し、
「あははっ……」俺は空笑い、
「キヨタ……」モトは親友の傍若無人っぷりに頭を抱えていた。
こんなことになるなら連れて来るんじゃなかったと嘆いている。
うん、今回だけはお前に同情してやるよ、モト。
頑張って認めてもらえるよう努力すると意気込むキヨタは、俺の前に立ってビシッと指差してきた。
「てことでケイさん! 俺っち、貴方に宣戦布告するっス! 舌洗っておいて下さいっス!」
舌じゃなくて首な。首。
心中で丁寧に訂正してやりながら、表の俺は小さく溜息。なんでこーなっちまうんだ。
だいったい元を辿れば、ヨウが皆の気持ちを考えないで俺を成り行き舎弟にしちまったのが原因だよな。
俺って完全なとばっちりだよな。
あーあ、田山圭太ってなんて不運な男なんだろう。
「おいおいおい」
ヨウは勘弁してくれよ、と荒っぽく頭部を掻いた。
ただでさえ日賀野チームに宣戦布告したばっかりなのに内輪で揉め事が起こるなんて。
そんな愚痴を零しているヨウに声を掛けてきたのは、それまで傍観していた響子さん。
それにうたた寝していた筈のシズも立っていた。
俺等の騒動にやや呆れている様子。
「ヨウ……これはお前の責任だ。チームに支障が出ないよう、お前が解決しろ」
「なんで俺の責任ッ、イッデ!」
「アンタが考えもせず舎弟を作ったからこうなったんだろ」
響子さんはヨウの脇腹に肘を軽く入れる。
「加減しろって」
ヨウは軽く小突かれた脇腹を擦っていたけど、響子さんはどこ吹く風で煙草をふかしていた。