青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「舎弟って何するんだろうなぁ。兄貴、お供しやす! ……って感じなのは分かるんだけどなぁ」
「俺の弟分だって考えればいいんだろ」
「うわっ、起きていたのかよ。ビビッたー」
ダルそうに欠伸を噛み締めているヨウは、頭を掻きながら重たそうな瞼を開ける。
「弟分って言われてもなぁ。兄貴! お供しやすって俺、言うべきか?」
「なんでそういうイメージしか持たないんだよ」
「だってイメージ湧かないっつーかさ」
ホントは舎弟なんてなりたくないんだけど。
内心、本音を垂れながら俺はヨウに視線を送る。
「っつーか、俺みたいな奴、舎弟にしても価値ねえって」
「面白ぇからな。お前」
「それで舎弟にするお前が凄いって。バッカだろ」
そこまで言って俺はハタッと気付く。
天下の荒川庸一を『馬鹿』呼ばわりしてしまった俺。
度胸あるないの問題じゃない。ヤバイ!
真っ青になる俺とは対照的に、ヨウは呑気に「大したことしてねぇぜ」って笑っている。
そりゃお前にとっては大したことねぇかもしれねぇけど、俺にとっては死活問題にまで発展する出来事なんだって。
「先客がいるぅ。僕ちゃーんより先に来てるのは、ヨウちゃーんじゃーん」
あの、あのヨウをチャン付け? 俺の心臓が飛び上がるかと思った。
ぎこちなく声の方を見れば、俺はマジ泣きたくなった。教室に帰りたくなった。
数メートル先に不良がいる。不良がいるよ。こっちに接近しているよ。
ニヤニヤしながらこっちに来ている不良サマの髪、オレンジ色だよ。
オレンジってさ、オレンジって日本人の髪に合わないと思うんだよ。
俺的にはさ。やっぱ日本人って黒じゃね? 頑張って茶髪が似合うんだと思う。
なんて感じるのは俺だけ? 長めのオレンジの髪にヘアピンしているしさ。
しかも、俺はこの人を知っている。
俺等の学年じゃ、いや学校じゃ超有名な人。
荒川庸一のお仲間、貫名 渉(ぬきな わたる)だよ。
つまりヨウとおんなじ不良仲間ってことだよ。
ある都市伝説によれば、カツアゲが大好きだとか。
ある架空伝説によれば、老若男女関係無しにカツアゲしてしまうとか。
ある不良伝説によれば、お金大好きで仕方がないカツアゲマンヤローとか。
総合的にいえば、カツアゲ好き。略してカツ好き。
あれ? 意味が違ってくる? ただのカツが好きな奴って意味になっているよ。
あははは、参ったなこりゃ。
……阿呆なこと言っている場合じゃないよ! 俺、ピンチじゃん! 大大大大大ピンチじゃん!
心の中で震え上がっている俺の隣で、ヨウはダルそうな顔をして貫名渉を一瞥。
でも直ぐに目を閉じて欠伸を噛み締めていた。
かの有名な貫名渉にそんな態度取れるなんて、さすが荒川庸一。お前も有名だもんな。恐いもんな。不良だもんな。
貫名渉は「ツレないねぇ……」と言い、俺達の目の前までやって来た。
嗚呼、もう、俺、この場から消えてしまいたい。
「んんん? 君ぃー」
「はっ、はい。ナンデショウカ?」
「歳に似合わず、健康オタクなのぉー?」
持っている紙パックを指差してニヤニヤと笑ってくる。
対して俺は引き攣り笑い。
俺が飲みたくて飲んだと思っているのか? それは違うぜ。ヨウが奢って下さったから、一応飲まないとイケないと思ったんだよ! と、心の中で強気に言ってみる。