青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「や……ヤマトさん。なんで此処に」
「久しぶりだな。荒川の飼い犬。相変わらずキャンキャン吠えてるみてぇだな」
「犬じゃない!」
モトは全否定するけど、俺も犬だと思うよ。ヨウへの忠誠心、凄まじいしな。
「プレインボーイ。舎弟解雇オメデトウ」
「あ、ありがとうございます! おかげさまで解雇されちゃいました」
てへてへと笑って頭部を掻く俺の乱心っぷりに、
「しっかりしろって!」
焦燥感を抱いたモトに喝破されてしまう。
どうにか我に返れたけれど、動揺は凄まじい。
駄目だ、ほんっと日賀野大和だけは無理、俺のトラウマだよ。顔を見るだけで恐怖心が込み上げてくる。
大体、なんでこんなところにいるんだよ、ニッタァと嫌みったらしく笑う日賀野を見上げる。
もう、日賀野に俺達の新しいたむろ場がばれたのだろうか? 情報通とは聞いていたけれど、真実ならさすがだよ。
「この周辺に場所を移したと噂を聞いて、偵察ついでにほっつき歩いてみれば、見事にビンゴ。しかもプレインボーイが舎弟解雇されているなんざ、面白い情報を手に入れた。どうだ、プレインボーイ。単細胞生物から斬り捨てられたんだろう? 俺のところに来ないか?」
「お、俺は斬り捨てられたわけじゃないですよ」
「同じ意味だろ。貴様の持つチャリの腕前や土地勘は、俺のようなアタマを使う人間じゃないと才能を発揮できないんだよ。俺ならお前を上手く使ってやる」
くつくつ喉で笑う日賀野は、「俺の舎弟条件は力だけじゃねぇ」持っている潜在能力まで計算に入れるのだと、口角を持ち上げる。
「それができない無能な舎兄は手前から斬り捨てるべきだぜ。プレインボーイ。
不必要とされているチームに身を置いてなんに得がある? 荒川のところにいてもせいぜい捨て駒程度じゃねえか……おっとその顔はノーか?
まあまあ、ゆっくり考えてみよーぜ? いい返事を期待している」
言うや否や日賀野は親指と人差し指で輪を作り、つんざくような指笛を鳴らす。
甲高い指笛は周辺に響き渡り、同時にそれが合図だったのか、俺達の来た方向と反対側の方向、各々数人の不良らしき集団が姿を現す。
日賀野はひとりでここら一帯を偵察していたわけじゃないようだ。徹底した念の入れようだ。
しかもモト曰く、日賀野の直接的な仲間じゃないらしい。どうやら協定を結んだ不良達の一角のようだ。
卑怯だ、自分の仲間じゃなくて協定を結んだ不良を使うなんて。
この不良達はヨウやワタルさんに個人的な恨みがあるらしく、同チームにいる俺等に敵意剥き出し。
日賀野は私怨を使って協定を結んだんだな。
クソッ、ヨウ達がたむろっている場所まで目と鼻の先だってのに。
と、モトが俺の手首を掴んで不良達の集団に突っ込んだ。
モトは集団の中でも薄い壁になっている場所に不意を突く。
おかげで俺達は不良達の集団を抜け出すことに成功することができた。
だけど、ヨウ達のいる場所とは反対方向に出てしまう。
応援を呼びたいところだけど、とにもかくにも逃げる事が先決だな。
モトにアイコンタクトを取り、俺達はスタートダッシュからフルスピードで駆けた。
「お手並み拝見させてもらうぜ、プレインボーイ。ゲームを盛り上げてくれよ」
ニヤつく日賀野の言葉なんて、勿論俺達の耳には入らない――。