青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
モトに指示して先に走るよう促す。
物言いたげな顔をしてくる中坊に早くしろと背中を押し、ビルとビルの間にできている細い道へ。
先を走るモトに行く道を指示しつつ、俺は周囲に目を向けては物を散らしていく。
それはゴミが入っているポリバケツだったり。
積み重ねられているプラスチックケースの箱だったり。放置されている自転車だったり。
少しでも道を塞ごうと努める。時間稼ぎにはなるだろうから。
再び大通りに出ると、俺達は近場の服屋に飛び込んだ。
わりと広い服屋の試着室に身を隠すため、ローファーを脱ぎ、バタバタとカーテンを閉める。その際、俺のローファーは手に持って上がった。
試着室前に二足も靴があると怪しまれるからな。
尤も、店員さんには既に怪しまれているけれど(だって野郎二人で試着室って)。
今しばらく試着室で息を殺し、外の様子を窺う。
いつまで経っても追っ手らしき声は聞こえない。
静かにモトと顔を見合わせ、助かったとその場に座り込んだ。やっと安心してあがった呼吸を整えることができる。
「あ、あの人数はないだろ。ぜってぇ俺達をフルボッコにする気満々だったって。はぁああっ、疲れた……そうだ、ヨウに連絡。あ、携帯忘れた。モト、お前、携帯持って」
「ストップ、ケイ。声が聞こえてきた」
ゼェハァ息をついていたモトが人差し指を立ててくる。
嘘だろ、結構な距離を走った筈なのにもう追いついてきたのかよ。
声を上げそうになりながらも、どうにかそれを嚥下して耳を澄ませる。
「いねぇな」「何処行きやがった」「逃げ足の速い奴等だ」等など物騒な声が聞こえてきた。軽く店を見て回っているようだ。
随分人数もいたし、俺達を手分けして捜しているんだろう。
「しっかし邦一さんの情報はスゲェ。荒川達がよくあそこのスーパー付近でたむろしてるって分かったな」
「どっから仕入れてくるんだろうな。ま、以前荒川に喧嘩で負けた悔しさが行動に出てるんだろ」
追っ手の会話を聞く限り、協定を結んでいる不良達の正体は池田チームの回し者のようだ。
ろくに店内を調べもせず店を出て行ってしまう池田チームの回し者をこっそり見送った後、俺はモトと顔を合わせる
。
「池田チーム……随分な数をこっちに回してきたな。てことは、今、向こうのチームは手薄なんじゃないか。たむろ場所は弥生から聞いているし……これってチャンスじゃね? モト」
「チャンスって……なんだよ?」
キョトンとするモトに説明を続ける。
「池田チームを潰すなら今しかないんじゃないかって話。あの追っ手達を一手が引き付けておいて、その隙に一手が乗り込む。
ヨウって卑怯なことは極端に好きじゃないみたいだけど、向こうから振ってきた喧嘩だ。この作戦、分かってくれると思う。誰かがオトリになって追っ手を引きつけている間に……」
「でも誰がオトリになるんだよ。ケイやオレじゃ、その内、あいつ等に捕まるぜ?」
頭の中に恐ろしい結論が出ていた。
したくはないけど、これができるのは俺だけだ。