青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「き、キヨタ!」


弁償という脅威をどう乗り切ろうか考えていた最中、モトが喝破した。


明らかに焦燥感を滲ませた声音。

俺の目に飛び込んできたのものはキヨタが不良に押し倒され、鋭利あるナイフを鼻先に突きつけられている壮絶な光景。


キヨタはぎりぎりのところで両手首を掴み、切られることを免れている。


けれど危機に陥っていることは一目瞭然。

なんでナイフなんか……これはただの喧嘩だろ? ナイフなんて卑怯じゃね? 殺し合いでもしたいのかよ!


切れた若人が何をするか分からないと度々ニュースで示唆していたけど、まじでそう思う。


多大な恐怖心を抱いた。

けれどキヨタを助けなければいけない気持ちの方が勝る。


親友の危機を目の当たりし、感情のままに飛び出すモトの制服の襟首を掴み、「俺が行く」自転車の方がまだ安全だ。


武装している感がある。

丸腰で行って怪我でもしたら一大事だからな。


「モトはヨウのサポートを頼む」


ペダルに足を掛け、相手に指示した。

素直に返事してくれるモトの駆け出す姿は見送れなかった。

一刻も早くキヨタの下に行かなければ、という使命感が俺の背中を押していたのだから。


一人分の体重がなくなったためにチャリのペダルが軽くなる。

立ち漕ぎで助走をつけ、俺はキヨタが相手している不良に向かって猛突進。


優位に立っていた相手は油断をしていたようで、妙な奇声と共に相手は横倒れした。


その隙にキヨタがナイフを奪い、相手の腹部を思い切り蹴り上げる。


凶器は彼の手により放られ、直線を描きながら停めてある車の下へと滑り込んだ。

勝負はキヨタに軍配が挙がった。と、思いきや、相手が再び上体を起こした。敵方はタフで打たれ強いようだ。

不良は食らった攻撃を諸共せず、キヨタに襲い掛かる。

振り上げられた蹴りを受け止めるために身構えるキヨタ。


俺は双方の間に割って入り、自転車の前面で蹴りを受け止めた。


大きな衝撃が走り、自転車に倒れそうになる。

それ以上に相手は大ダメージを受けたようで、弁慶の泣き所を押えていた。


隙を見てキヨタの裏拳が飛ぶけれど、相手は器用に受け流す……合気道をしていたキヨタの攻撃に動じないなんて、これは不味い。


「キヨタ。乗れ!」


一旦体勢を整えるべきだ。

そう判断した俺はキヨタに後ろへ乗るよう指示する。


瞠目するキヨタに早くしろと怒鳴り、後ろへ乗るよう強要する。


俺の手を借りたくないのか、それとも他に思うことがあるのか、キヨタは躊躇いを見せていた。


けれど、意を決して自転車の後ろへ。

しっかり捕まっておくよう言うと、ペダルを強く踏んでその場を離れる。


ブレーキ壊れ気味の自転車はギシギシ、ミシミシ悲鳴を上げながら、見る見る加速していく。


荒れた呼吸を整えるキヨタを横目にしつつ、「あいつ。やばいか?」相手のステータスを尋ねた。間髪容れずキヨタは肯定する。


「どーも俺っちと同じように空手か何かをしてたみたいっス。しかも体格の差で向こうが少し上手(うわて)っス」


悔しそうにキヨタが顔を顰めた。

なるほどな。キヨタの体躯は165ほどしかない。


一方、相手方は目分180はある。体躯は力の差を明確に分けるだろう。


まともにやればキヨタの不利は確定だ。

けど自分の体躯を卑下していてもどうしょうもない。


「パワーで負けているなら、こっちはスピードで勝ってやろうじゃんか。キヨタ、俺がチャリでギリギリまであいつに接近して曲がる。
お前は瞬間を狙ってアイツを殴り飛ばせ。加速プラス拳じゃ、さすがに向こうも太刀打ちできないだろ」


我ながらナイスアイディアだと思う……自分の身も危ないけれど。


「そ、そんな器用なことできないっスよ! 落ちちまうかもしれないっス! 失敗する可能性大っスよ!」


俺の提案にキヨタが真っ向から無理だと却下を申し出た。

他に良いアイディアもないだろう? ならやるしかない。失敗する可能性があったとしても。


「自信を持てよ。お前ならできるって」


俺はチャリをかっ飛ばしながら同乗者に笑い掛けた。

お前は一番の舎弟候補なんだ。


これしきのことで嘆いていたら、ヨウの舎弟なんて務まらないぜ? あいつの無茶振りはこんなもんじゃない。


なにより、お前はそれだけの力がある。

合気道を武器にしているお前の力を存分に発揮してくれ。


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