青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「俺の武器はチャリだ。俺がお前の足になって、お前の武器にしてる合気道の力を何倍にもしてやるから。仮に失敗したときゃ俺も一緒だ。一人じゃない」
「ケイさん……」
「大丈夫。キヨタ、お前ならやれる。自信を持て、舎弟候補! お前は俺以上だ!」
渇を入れてやると、キヨタが自信をつけたように眼を開いた。
「――俺っち、やるっス。ケイさん、お願いします」
キヨタがしっかりと肩を掴んでくる。覚悟と決意が手に籠められていた。
左肩に痛みが走ったけど、それを口にすると折角の見せ場が台無しだ。
痛みを表に出さぬよう努め、根性でペダルを踏む。
視界の端にヨウの喧嘩の様子が見えた。
ちょっと寄り道をするか。
俺はキヨタにまずは予行練習だと告げて、チャリをヨウ達の方向に走り飛ばす。
果物ナイフを向けられているヨウを助けるために。
「ヨウ!」
俺の呼び掛けに、向こうが弾かれたように顔を上げた。
俺達が何をするのか察してくれたのか、地を蹴って一時後退する。
その隙に二人の間にチャリを割り込ませ、池田寄りに自転車を走らせた。
「今だ、キヨタ!」
「はいッス!」
合図と共にキヨタは片足を振り上げ、素早く池田の右腕を蹴る。
痛みに呻く池田の手から果物ナイフがすっぽ抜けた。
宙を舞い上がる刃が日射を浴びて煌く。
砂利の上に落ちたことを確認して俺はキヨタと共にガッツポーズを取った。任務完了だ。
「サンキュ。ケイ、キヨタ」
微笑を向ける。勝てよ、ヨウ。
「おっとっ、うわッツ!」
勢い余ってキヨタはバランスを崩しそうになった。
俺は体にしがみ付くよう指示する。言われるまでもなくキヨタは俺の体にしがみ付いてきた。
左肩に激痛が走るけど、呻き声は大きく嚥下。
根性の根性で耐え、態勢を立て直すキヨタを待つ。
どうにか態勢を立て直したキヨタは、もう大丈夫だと俺に言ってきた。
頷いて俺はチャリを大きく右へ旋回させる。
本番だ。
ターゲットになっている巨体な不良は俺達の様子を見つつ、受け身の態勢。
なるほど。さっきみたいに俺が自転車で突っ込むと思っているんだな。
だけど甘い。
突っ込むだけが能じゃないんだぜ!
チャリのスピードを最大にまで出した俺は不良に突っ込む。
受け身を取られる、その寸前でハンドルを切った。
勢いに乗った自転車は右に大きく方向転換する。遠心力を使い、キヨタは力の限りに相手の腹部に蹴りを入れた。
これはすこぶる効いたみたいで、相手は息を詰めるような声を出してその場で片膝をつく。暫くは立つこともできないだろうな。
けれどキヨタは容赦なく、反動をつけて自転車から飛び下りると振り上げた踵を相手の肩に落とした。
決定打となり、相手の体が崩れる。
着地に失敗したキヨタもその場でずっこけた。
隙を見た向こうの仲間が、キヨタの顔面目掛けて拳を飛ばす。
こっちにも仲間がいることを忘れてもらっては困る。
方向転換に時間を要する自転車を乗り捨て、キヨタの前に出るとその拳を両手で受け止めた。手の平がジーンとなったよ。アイタタになったよ。
ついでに恐怖心が込み上げてきたよ。
だけど、この勝負は俺達の勝ちだ。
口角を持ち上げると同時に、体勢を立て直したキヨタが素早く拳を相手の腹部に入れる。
それだけに留まらず、倒れそうになる相手の手首を取ると脇に潜り込んで、そのまま手首をひねり、相手を投げ伏せた。
すっげぇよおい。
さすがは合気道全国大会準優勝者。伊達じゃねえよい。
あっ気取られる俺の前で学ランを整えるキヨタは険しい面持ちから一変、俺に満面の笑顔を作ってみせた。
「ケイさん、助けてくれてありがとうございました。喧嘩はできないと聞いていたのに、こんなにも喧嘩強いなんて御見それしたっス!」
ぺこっと頭を下げてくる中坊に一笑し、肩に手を置いた。