青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「良い弟分じゃん。モト」
「ンとに、俺に勿体ねぇくれぇの弟分だ。できた奴だよ。いっつも真っ直ぐ俺の背中を追っ駆けて……可愛い弟分だ」
そうだな、モトはヨウをがむしゃらに追っ駆けている。純粋にさ。
おかげで俺には可愛くねぇ性格だけどな。
あの刺々しい性格はなんとかならんもんかねぇ。
「ヨウさん、それ、モトに直接言ってやって下さい。あいつ、凄く悩んでいたみたいっスから」
それまで静聴していたキヨタが会話に加担してくる。
曰く、モトは俺という舎弟ができてから自分の存在価値について悩んでいたらしい。
別段俺とヨウは特別な関係を意識しているわけじゃないけれど、モトの視点では特別な何かを感じたようだ。
ヨウから離れた方が良いのか、自分はこのままヨウを尊敬していても良いのか、うんぬんかんぬん悩んでは鬱々としていたらしい。
それは決して仲間には見せない、モトの一面だ。
話を聞いて胸が痛くなった。
モトは純粋にヨウを慕っていただけなんだよな。
それなのに尊敬も気持ちもない俺が舎弟になったものだから……モトにとってショックで辛くて悲しい出来事だったに違いない。
もしかしたらヨウにとって自分はいらない存在かも、邪魔な存在かも、と悩んでいたのかもしれない。
ご都合主義で、俺に敵意を向けっぱなしだったけれど、モトは本当に純粋な気持ちでヨウを慕い尊敬していただけなんだ。
あいつに仲間だと明言されたからこそ、聞いていて胸が痛くなる。
会話も途中で途切れ、俺達は暫く暇を弄ばせていた。
随分と時間が掛かっているな。出直してきた方がいいかも。
あれこれ思案をめぐらせ始めた頃、ようやくモトが待合室に顔を出した。親御さんの姿は見られない。
先に帰ってしまったのだろうか?
それともモトが親御さんと別行動を取っているだけなのだろうか?
真意は分からないけれど、ただ一ついえる。モトの顔面は蒼白だ。
「し、死んだ。本当に死んだ」
青褪めたままモトは、
「死ぬかと思った」
二度と縫う経験なんてしたくないと吐露。
刺される経験の方がまだマシだと強く主張する。
「刺されるよりも、麻酔注射の方がやばい……やばかった。オレ、本気で殺されるかと……!」
よっぽど麻酔注射が痛かったらしい。
思い出すのも嫌だとモトは身震いをしていた。
俺達はそんなモトに思わず笑った。
元気そうなモトに安心したよ、ほんと。
「親は?」
ヨウの疑問に、
「駐車場で待っています」
どうしても付添い人をしてくれた俺達に礼が言いたかったそうだ。
今日は親と帰宅するらしい。
家に帰ったら説教が待っているだろうな、ゲンナリするモトは力なく肩を落とす。
でも後悔はしていない。
はにかむモトに、ヨウは力なく笑う。
詫びたそうな面持ちを作っていたけれど、「あんがとな」素直に礼を告げていた。
それでいいのだと俺は思った。
ごめん、なんて言葉、モトは望んでいない。