青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「安心したら小便に行きたくなったな。キヨタ。連れションに付き合ってくれね?」
俺の申し出に、「え?」なんで今まで行かなかったのだと視線を投げられたけれど、いいから来いと首根っこを掴む。
まだモトと話したい。
主張するキヨタを総無視してヨウにそこで待ってくれるよう指示。
ズルズルとキヨタを引き摺って手洗いの方面に歩いた。
けれど、曲がり角で立ち止まり、二人の様子を陰から窺う。
ようやく空気を読んだキヨタも、ひょこっと顔を出して待合室を観察。身を出しすぎだと制服を引き、二人の様子を見守る。
俺達がいなくなった途端、モトの表情が暗くなった。
ボソボソとヨウに何か訴えているようだけれど、うまく聞き取れない。集中して耳を澄ます。
「ヨウさん……貴方の舎弟は無理だと思いました。辞退します。情けない怪我をしてしまいましたし」
「モト、そりゃ俺が」
「いえ、これはオレが油断したばっかり……正直言って、どっかでヨウさんの舎弟になりたい気持ちはありましたけど、オレには無理そうです。
ケイみたいに尊敬する貴方に大それた意見なんてできませんから。
さっき追われている時の電話でもそうです。貴方に意見なんてできませんでした。
なんとなく気が引けると言いますか。
ひっくるめてヨウさんを尊敬しているからこそ、思うことがあっても二つ返事で頷くオレがいますし。
オレ、舎弟になることでヨウさんの特別になりたかったんだと思うんです。
二人を見ていると特別な関係にあるような気がして。
だけどそう思うのは間違いだって気付きました。
舎弟でなくても、貴方の友達であろうとしたケイを見て、オレは舎弟でなくても貴方の背中を追い駆けることには違いないんだと思いました。
逆に舎弟になって貴方の特別になれるかと言えば、そうでもない気がします。
舎弟というプレッシャーに潰されるかもしれません。
ヨウさんには尊敬する気持ちが宿ってますから。上手くいかないような気もします。
だったらオレ、今までどおりがむしゃらに貴方の背中を追い駆けたい。
ヨウさんが今、どう思っているかは分かりませんけど、オレは辞退します。舎弟には向いていません。
キヨタも多分、本気でヨウさんの舎弟にはなりたいとは思っていないと思います。
キヨタはオレのことを思って、あんな行動を取ってくれただけなので。尊敬する気持ちはあると思いますけど……。
こんなオレのこと、軽蔑するかもしれませんけど……オレの今の気持ちです。
すみませんでした、ヨウさん。
舎弟騒動まで起こして……原因はオレの嫉妬からなんです。もう、オレ、ヨウさんの背中……追っ駆ける資格もない気がしてきました」
モト……。
俺は今にも飛び出して二人に話し掛けようとするキヨタを止めながら、しきりに胸を痛めていた。
尊敬しているヨウにあんなことを言うなんて、どれだけ覚悟を背負ってヨウに吐露しているんだろ。モトの気持ちが見えない。
「馬鹿、謝るのは俺の方だ。俺のことを追っ駆けてくれるテメェの気持ちをちっとも考えねぇで舎弟を作ったんだからな」
苦々しい笑声。
沈鬱な顔を作っているモトの頭に手を置いてヨウは申し訳無さそうに笑っていた。