青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「――俺っち、あいつが羨ましいっス」
俺とデガバメしていた仲間がぽつりと零した。
あんなにも純粋に真っ直ぐ誰かを追い駆けられるなんて、とても羨ましい。
キヨタは胸の内を明かして壁に背を預ける。
「俺っちもヨウさんを尊敬していたけど、モト伝いに武勇伝を聞いたり、そっとヨウさんの喧嘩する姿を見たりするだけだった……俺っちがモトなら耐えられなかった気がするっス。尊敬する不良に舎弟ができた時点で、その場から逃げていた。あ、べつにケイさんを責めてるつもりはないっス」
「うん。分かっているよ」
「モトは凄いっス。ああやって変わりなくヨウさんを追い駆けているんだから。俺っちの親友は自慢の奴っス。
とにかく吹っ切れたみたいで良かった。あいつがあいつの意思で舎弟辞退したなら、俺っちも言うことはないっス。俺っちも、モトみたいに背中を追い駆けたいな」
でもできるかな。
眉根を寄せるキヨタに、「やれるよ」お前の熱意だって負けちゃいない。キヨタにもできると声援を送った。
「追い駆けたい奴の背中がいるんだろ? いいじゃん。立派な目標があって。自信持てよ、自分で決めた追い駆けたい背中なんだから」
真ん丸に目を見開くチビ不良が見る見る破顔する。
うんっと頷き、自分も負けずに尊敬する人の背中を追い駆けると握り拳を作った。
「目指せ舎弟の座獲得、いやまずは弟分になれるよう頑張るっス。モトには負けないッスよ」
きらきらと目を輝かせるキヨタに俺はついつい引き攣り笑い。
声援してなんだけど、お前の尊敬する人間はモトと同じ人物だったな。
こりゃ俺とキヨタの舎弟一騎打ちになりそうだ。
結果は目に見えているんだけどさ……ヨウがどっちを舎弟にするかだなんて。
もう暫く舎弟問題が続くのかな。
遠目で近未来を思い描いていると、「ケイさん」キヨタがずいっと見上げてきた。
「俺っち、髪の色を変えようと思うんっス。背中を追っ駆けるためにはまず形から入らないと! どうっすか? 似合いそうですかね?」
どうって……あー……白から金に染めるってことか?
そういやモトも金に染めているよな。
あれって尊敬している不良のヨウが金髪だから、金に染めているんだな。
俺はキヨタの身形を見て、「似合うんじゃね」と言ってやった。
白よりかは金の方がまだキヨタに似合うと思う。
白も似合うっちゃ似合うけど……違和感があるんだよな。中学生のくせに白髪だなんて。
「そうですか!」
なら今週中に染めて来ようっと。
ウキウキするキヨタが手洗いの方へと駆け出した。
本当に小便がしたくなったようだ。
仕方がないから連れションに乗ってやろう。
誘ったのは俺だし、今は二人の時間を邪魔しちゃ悪いだろ。
小さくなるキヨタの背中を見つめながら、俺は人知れず口元を緩める。
喧嘩に舎弟問題、日賀野達との対立、色んな衝突の中で俺は確かに大切な繋がりを手にしている。
これまでの人生で手にしたことのない、繋がりが見出せている。
モトのことも一件でとても好感度が上がった。
仲間だと言われて凄く嬉しかった。
不良の見方が俺の中で変化しつつある。
今も不良は恐ろしい。
けれど繋がりを得た不良とは、仲間と思っている不良とはつるんで楽しいと思えるようになった。
ヨウとはもう舎兄弟じゃないけど、俺も少し、嘘、随分思っている。ヨウの舎弟になって良かった……と。