青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
チームメートの視線が一点に流れる。
千行の汗を流す俺は、「ヨウったら男前だな」そんなことを言ったのかよ。と、肘で小突いた。
舎兄が反応を返す前に、「だから俺っちは決めたんッス!」声音を張るキヨタが天に向かって宣言した。
「あの人の弟分になるのだと、そしていつか舎弟になるのだと! 俺っちはケイさんの心意気に惚れたんッス―――!」
暗転、しそうだった。
短い人生を歩んできた今日(こんにち)。まさか男に雄々しい告白を受けるなんて。
嗚呼ヨウ。今なら分かる。熱烈アピールされていた、お前の気持ち。お前はこんなに苦労していたんだな。
どうしよう、俺、途方に暮れているんだけど。あいつの趣味が分からん。
「あっひゃひゃひゃっ! ケイちゃーん惚れらてやんの! 傑作なんだけど!」
腹を抱えて笑うワタルさんが涙を流している。ひ、他人事だと思って!
眩暈を噛み締めていると、本能が警鐘を鳴らした。
反射的に前方を見やれば猪突猛進に突っ込んでくる不良一匹。
逃げる間もなく相手にタックルされ視界が大きく揺れた。
どうにか足を踏ん張って相手の体を受け止めるけど、そのパワーには恐れ入った。田山は大ダメージを受けたよ。
「き、キヨタさん」
いきなり何をしてくれるんですか……顔を強張らせて視線を下げると、きっらきらした眼が俺を捉えてくる。
「今日も男前ですね。カックイイッス!」
なんのフィルターが掛かっているのお前! 俺が男前でカッコイイ? 嘘、何処が?!
ジミニャーノをからかっても何も出てこないぞ。
ほら、早くヨウのところにお行き!
「ヨウは向こうだから」
グイグイと相手の体を引き剥がそうとしても、
「俺っちはケイさんについて行くと決めたんッス」
しがみ付かれるばかりか素っ頓狂なことを言われる始末。
なんでこうなるのよほんと!
まさか、まさかキヨタが俺の背中を追いたいと思うなんて。
いや、冗談きついよ、キヨタ。
まさか、ほら、俺、地味っ子なんだからさ。
キヨタ、ヨウのことを尊敬していたし、最初に会った時なんて俺に落胆していたじゃないか。まさか、なあ?
「俺はお前の思うほど出来た男じゃないからっ。習字とチャリしか取り得のない地味男なんだぜ?!」
「チャリだけでなく習字も出来るんっスか! さすがですね!」
……ポジティブに受け取られた。負けるか!
「ヨウと比べる俺の特技なんて月とすっぽん! イケているわけでもなく、手腕もない。一度日賀野にフルボッコにもされた大間抜け野郎なんだぞ! 凄いだろ!」
「ケイさんの男前な心意気には誰も負けていませんっス! しかも手腕がないのにあの有名な日賀野に立ち向かったんっスね! 凄いじゃないっすか!」
何故そう受け取るの君!
「俺、日賀野にフルボッコにされたんだけど」
「勇気を持って立ち向かった、その気持ちが敬意に称しますッス!」
一点の曇りもない、純粋な眼で俺を見ないで! 立ち向かうどころか、危うく相手に屈しそうになったんだって!
「……弟分になっても、後悔するだけだと思うけど」
「どこまでもお供します! いつか、ケイさんに認められて舎弟になれる日まで、俺っち、努力もしていきますッス!」
ぎこちなくキヨタに目を向ければ、いつまでもキラキラキラキラと目を輝かせて見上げてくる。