青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



ゲンナリと顔を顰めていると、どこからともなく熱い眼を感じた。ヤーな予感がする。横目で犯人を探す。



「俺っちも、ケイさんと同じ学年になりたいなぁ」



やっぱりお前か。

勝手に人の留年を妄想してしやがって。


キラキラキラキラキラ。

キラキラキラキラキラ。


尊敬の眼を送ってくるキヨタは、


「俺っちはどこまでもついていきます」


なんぞと告白してくれる。


たいへん重たい弟分愛である。

お前も、俺等と同じ高校を受験するつもりなんだな。


愛想笑いを浮かべ、キヨタの頭に手を置く。


「留年はしないけど、お前が学校に来ることを楽しみにしているよ」

「はいっス!」


大感激だとはしゃぐキヨタは頑張ると俺に笑顔を向ける。その気持ちが空回りしないことを願うよ。

響子さんがまたひとつ紫煙を吐き出す。
空気に触れた紫煙が溶け消えてゆく。苦々しい臭いが鼻腔を不快感にさせた。

「とにかく追試をパスしねぇと、チームどころじゃねーだろ。アンタ等、いつから試験だ? うち等の高校は五日後だけど」

きょろっと眼球を動かして近場にいたハジメに問う。
他の面子では日程すら把握していないと判断したようだ。


「僕等のところも五日後だよ。つまり五日で勉強をしなきゃならない」


「でも大丈夫かな」ハジメは不安を口にする。


だよな、俺も不安だ。

ヨウ達って極端に勉強を嫌っているみたいだから。

教科書開いた途端、寝ちまいそうだ。個別に勉強する奴等じゃないだろうし。


タコ沢は意外にも一教科だけパスすればいいみたいだけど、残りは四教科も五教科もあるみたいだ。

この調子じゃ、本当に留年に向けた四者面談を迎えちまうよ。どうしたものか。まじで日賀野達との交戦どころじゃないぞ。

すると響子さんが仕方が無いとばかりに案を出した。


「残り五日、追試をパスしたうち等がアンタ等の勉強を見てやる。パスしたのはうち、ハジメ、ケイにココロ。この四人で追試組を面倒みてやる」


え゛?

俺等で勉強を教えるの? ヨウ達に?! 俺だってそんなにできた方じゃないのに?!


「ええぇー……響子。ヨウ達に勉強を教えるって、自学自習より難しいことだって」


ハジメは無理だと意見するけど、「しゃーないだろ」響子さんはヨウ達を親指でさした。


「チームの戦力の大半が追試に回っちまっているんだ。うち等でどうこうできる状況じゃないだろ」

「そりゃそうだけどさ。はぁーあ……ヨウ達に教えるだなんて……骨折るよ。きっと」


仕方が無しに同意するハジメ。響子さんには逆らえなかったみたいだ。

俺やココロも響子さんに逆らえる勇気はなく、渋々と承諾した。


響子さんに逆らえる人ってそうはいないと思うよ、うん。追試組も留年の危機が迫っているということで異論はなかった。


早速勉強するべく倉庫裏から、幾分勉強ができるであろう倉庫内に移動する。

幸いなことに此処の倉庫は常日頃から扉であるシャッターが開かれている。

机や椅子はないけれど、中は静かだし、外より幾分マシだ。


滅多に人も来ないから好都合だろう。窓辺から日差しも入ってくるから視界も良いし。


周囲にドラム缶や鉄パイプ、木材といった荷はあるけれど、地べたに座り込んで教科書を開くだけの余裕はあるだろう。


さあ地べたに座り込んで勉強を開始……したはいいんだけどさ。


教科書を開いたシズがまず、それを眺めて数秒後におやすみなさいモード。

うとうとと居眠りを始めた。早いよお前。まだ教科書を開いただけだろうよ。


シズを起こそうと足を動かす。


けれどその前にどこからともなく欠伸が聞こえた。


首を捻れば、眠気を誘われたかのように弥生も欠伸を噛み締めながら、

「意味分かんない」

世界史Aの教科書を近付けたり遠ざけたりしている。

胡坐を掻くヨウは俺も眠くなった。

頭に入らないと伸びをして、首をパキポキ鳴らした。

ワタルさんなんて「留年でいいやー」もう諦めかけている。


なんだこの根性なし達。


タコ沢を見習えよ。

あいつ、壁に寄り掛かって黙々教科書を眺めているぞ。

生物Ⅰだけ赤点だったらしいんだけど、それだけ手をつけていなかったから結果が悲惨なことになったとか。すげーな、タコ沢、意外とやれる男なんだな。


勝手に自分で勉強しているんだもんな。


しかし……ヨウ達のあまりのやる気のなさに教える俺等は絶句。


どーするよ。

このやる気皆無の空気。教える教えないどころじゃない。

まずはやる気を出させないと、どーにもなんねぇって。

俺の周りにいる不良って喧嘩には燃えるくせに、勉強になった途端消沈するんだな。

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