青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「あ、やべ。ノートもルーズリーフも持ってねえ」


ココロの提案を素直に受け入れたヨウは困ったと頬を掻いた。


なあにが困っただよお前。

いつもロッカーに置き勉しているじゃんかよ。

今日はたまたま数冊、教科書を鞄の中に入れているみたいだけどさ。


普段はノートすら持って来てねぇだろうよ。


溜息をつく俺を余所に、他の面子もノートやルーズリーフは持っていないようだ。


これじゃあ勉強うんぬんかんぬんどころじゃない。

追試組ってつくづく世話を焼かすよな。

ルーズリーフをあげたいところだけど生憎、俺はノート派だ。響子さんやハジメも持っていないようだし。


中学生組に聞くにも奴等は不在。

何故なら勉強の邪魔になるからだ。高校レベルの勉強をあいつ等が見てやれるわけがない。かといって此処にいても、俺達に話しかけて邪魔するだけ。


なら少しばかり外に出てもらおうと響子さんが二人に日賀野チームの偵察を頼んだ。


これは一石二鳥だ。

勉強の邪魔をしないプラス、日賀野達の様子を探ってもらえるのだから。

偵察を怠ったら後で痛い目に遭うだろう。喰えないチームだから仕掛けてくるか……。


「私がルーズリーフを買ってきますよ。ついでに何か食べる物を買って来ます。飲み物と一緒に。根詰めて勉強をしても頭が疲れちゃいますから。
それまで間違えたところを教科書で確かめて、アンダーラインでも引いておいて下さい。それだけでも勉強になります」


思案をめぐらせているとココロがまた案を出した。


お金は後で徴収するからと微笑む彼女に異論はないけれど……ひとりで行くつもりなのだろうか? 優しい彼女のことだから、きっと全員分のお菓子と飲み物を買ってくるつもりだろう。


目と鼻の先にスーパーはあるけれど、あそこのスーパーは寂れていて文具は置いていない。


だから少し遠出して文具屋に足を運ばなければいけないだろう。

非力な彼女に大荷物を持たせる上に、歩かせるのは大変申し訳ない気分になる。


「なあココロ」


感情よりも先に口が動いた。

キョトンとこっちを見つめてくる彼女に、「俺も行くよ」ついて行くと自己申告する。

驚く彼女がとんでもない。ひとりでも大丈夫だと遠慮してくるけど、


「いいじゃねえか」


響子さんが意味深に笑みを浮かべつつ、俺を親指でさした。


「ココロ、一人じゃ大変だろ? ケイと一緒に行け。こいつならチャリぶっ飛ばしてくれるだろうから、楽チンだ」

「で……でも申し訳ないですし。私、重いですから」


ぶんぶんとかぶりを振る彼女に、思わず笑ってしまう。


「そんなことないよ。いつもココロよりも体の大きいヨウを乗せているんだから。ココロさえ良ければ、俺も一緒に行くよ。一人じゃ大変だろ? あのスーパー、文具は置いてなかったから少し歩くことになるしさ」

「ですけど」

「あ、もしかして二人乗りは恐い?」


「い、いえ! その、ケイさんを疲れさせる気がしちゃって。あの……私、本当に乗っても良いんでしょうか?」


畏まって聞かれるとむず痒いや。

本当になんてことのないことを、しようとしているだけなのに。


うんっと頷いて笑顔で返事する。


するとココロがヨウに見せた、あの笑顔を俺に向けてくれる。

それはヨウ以上に柔らかい笑顔。錯覚かもしれない。偏見かもしれない。気のせいなのかもしれない。


けれど確かに、俺の視界に映る彼女の笑顔は花開いていた。

満開の花を見ている気分だ。知らず知らずのうちに俺も笑みを零してしまう。


早鐘のようになる心臓を無視して、俺も笑顔を作った。

ココロは自然な笑顔を作る魔法を持っているのかもしれない。

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