青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―







ところかわって、倉庫に残された荒川チーム。


「きょ、響子テメェ! 俺の頭をかち割る気かよ! マジ危なかったんだが!」

「ちょーっと酷くない? 響子ちゃーん、鉄パイプ投げるのは酷くないっぷ?」


危うく頭をかち割られそうになったヨウと、かろうじて鉄パイプを避けることに成功したワタルは口を揃えて抗議している最中だった。


怪我をしたらどうするのだと主張する二人にも、響子は動じない。


寧ろ「喧しい」舌打ちを鳴らして、一蹴する始末である。


なんて女だとゲンナリするヨウ達に対し、彼女は新たな鉄パイプを手にして野郎共を見据えた。


「あいつ等に茶々を入れようとすんじゃねえ。ココロとケイの仲をかき乱すような言動はうちが許さねぇんだよ」


突拍子もない発言に目を点にする被害者二人。

傍観者になっていたハジメが、おずおずとその意味を問うと、まんまだとお局(つぼね)さまは返した。


「今のやり取りを見ただろう? どう見たってあいつ等は相思相愛、想い合った仲。
ココロの片思いが報われる時が来たんだ! 妹分が片恋を抱いていると知って、うちはどれだけやきもきしたか。ケイを見つめて想うだけの日々には涙したもんだ。あいつは健気過ぎる。うちに似やがって」


「……響子ちゃーん、本気で自分を健気と思っているっぴ?」

「ねぇだろ。それ」


余計なことをヨウとワタルが言ったせいで、会話が一時中断、お局の鉄パイプが炸裂しそうになった。

どうにか思い留まらせようと機転の利くハジメが会話を無理やり再開させる。


「ココロの恋を応援していたんだね?」

と。


般若のような面持ちを作っていた響子は、当然と言わんばかりに鼻を鳴らして凶器を右肩に置いた。


「ココロほど可愛い妹分はいねぇ。姉分として応援するのは当然の筋だ……けどな、ココロは積極的じゃねえ。うちはどうケイにあいつのことを見てもらおうかと悶々悩んでいた。
そんな時にめぐってきた機会、ケイがココロを意識し始めた! ならこの機を逃してたまるか。邪魔立てするようなら、本気で女にしちまうぞ」


響子の形相に降参だとヨウとワタルは両手をあげる。

彼女ならば本気で女にしてきそうだ。


さすがに性別を変えられるのだけは勘弁してもらいたい。


しかしなんでまた響子がそれほどまでに二人の恋を庇うのか。

過剰に庇い過ぎではないだろうか。放っておいても実りそうな恋だと思うのだが。


疑問に思ったハジメがお局に問い掛けると、


「あいつ等は初心なんだよ」


響子は鉄パイプで軽く自分の肩を叩きながら小さく吐息をつく。



「ああいうタイプは周囲から茶々を入れられると進めなくなっちまうんだよ。自分の気持ちを否定して素直になれなくなる。
二人は恋愛に対しては初心なんだよ。どっかの誰かさん達みてぇにセフレを作ったり、一夜だけ過ごしたり、軽い気持ちで触れ合ったり……んなことはできねぇ奴等だ。妹分のココロのためにも、あいつ等の恋、成就させてみせる!」



力説する響子は燃えていた。

姉分として、妹分を想う気持ちがとにもかくにも燃えていた。


「ココロを泣かしたらケイは半殺し決定だがな」


なんて物騒なことを聞いてしまい、他のメンバーは何も言えなくなったりもする。

すべてはココロのためらしい。

自分の気に入った女であればとことん動く奴だと分かっていたが、ここまで妹分想いだと周囲は苦労する。

「あくまで二人を見守る側に立つの?」

弥生の質問に響子は頷く。

「カバーするところはカバーするけどな」

そう付け足して。


「あいつ等を見ていると、どーしてもくっ付けたくなるんだよ。いいじゃねえか、チームにああいう微笑ましい奴等がいても。目の保養になる。うち等の面子はろくな恋愛してねぇ奴が多いしな」


自嘲する響子自身も、ろくでもない恋愛をしていた。中学時代はエンコーというものをしていたのだから。


同調するヨウもまたろくでもない恋愛をしていたな、と思い出に浸る。恋人を作ったこともあったが長続きはしなかった。


それに、あれは果たして恋愛、といって良いものだったのだろうか。

別段性欲が強かったわけじゃないが、中学時代にひとりだけセフレを作っていた。


セフレだった彼女は今、向こうのチームにいる。

ヤマトのセフレだと聞いているが――自分達の関係は何だったのだろう?


(俺の恋愛を振り返るとケイには円満にくっ付いて欲しいと思う。普通に恋愛して欲しい気持ちが出てくる。あれか、俺にも舎兄心って奴が出てきているのかもしんねぇ)


しかし、あの調子じゃいつ実ることやら。


ヨウは人知れず苦笑いを零したのだった。



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