青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
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思えば、不良以外の人間をチャリの後ろに乗せたことなんてなかった。
敢えて例を出すなら、弟をチャリの後ろに乗せたことかな?
こうやって俺と同類の異性を後ろに乗せるなんてお初もお初。人生初めての経験だ。
真っ向から吹く、生ぬるい風を顔面で受け止め、両手を握り締める。ハンドルを握る手が汗ばんでいた。
これは緊張のせい、というより、変に意識しているせいだろう。
俺の体を気遣う細い手が優しく両肩を掴んでいる。
それだけで俺の胸は言いようのない熱を帯びた。
比例して絶対に事故を起こさない。
彼女を落とさないように気を付ける。
なるべく振動は押えるといった気遣いが脳裏を掠める。
普段なら絶対に思わないことだ。
同乗している子が単なる女の子だったら、俺はこんな気遣いを抱かないのかもしれない。答えは風の中だ。
暖かな日差しを浴びている穏やかな街並みを眺めながら、懸命にペダルを漕いでいると、「気持ちがいいです」通り過ぎていく風にのせた声音が俺の鼓膜を打つ。
後ろを一瞥すると黒髪を靡かせて、あどけない面持ちを作っているココロが眦を和らげた。
「ケイさん、運転お上手ですね。全然揺れないですもん。私、もっと揺れるものだと思っていました」
それはですね、俺が意図的に気を遣っているからなのです。とは、口が裂けても言えない。
「こんなもんだよ。今はなあんにもないから、普通に運転しているけどさ、喧嘩の時になると荒れ方が酷いんだ。モトに運転荒いんだよ! って文句を言われちまったし」
「そうなんですか? こんなにも気持ちがいいのに……想像すらできません。ヨウさんが羨ましいです。よく、ワタルさんが言ってますよ。『いつもチャリの後ろを独占してずるい』って。その気持ち、凄く分かります。気持ちがいいです」
ワタルさん……あの人は単に楽したいだけだろ。風の気持ち良さに心躍るような可愛い性格じゃないしさ。
「乗り心地がいいなら良かった。モトみたいに文を句言われたらどうしようかと思ったよ。あ、到着だ」
横断歩道向こうのお目当ての文具屋がある。
のんびりと道路を渡り、目的地の店の前にチャリをとめた俺は、早速彼女と店に入る。
ずらっと棚に陳列されているペンシルやノート、可愛らしいシールを目にしつつ、俺達はルーズリーフを手にした。
そのままお会計を済ませるだけで良かったのだけれど、ココロがシャープペンシル置き場で足を止めたために俺も足を止める。
欲しいものでもあるのかな?
尋ねると、「振るタイプが欲しいんですよ」と彼女。
「でも機能付きって高いですよね。あ、これも800円だ。ケイさんはどういうシャーペンがお好きなんですか?」
「俺はシャーペンよりボールペン派だからな。もっと言えば鉛筆派、あれが一番書きやすいや」
「お習字の影響ですか?」
ココロの問いに、うんっと俺は頷く。
伊達に短い半生を習字に捧げてきたわけじゃない。
毛筆硬筆は嫌ってほどさせられた。
おかげで一番、手に馴染む筆記具は鉛筆なんだ。
彼女は興味津々に耳を傾け、俺の話に相槌を打った。
おもむろに俺の右手を取ると、
「大きなペンだこができていますね」
それだけ沢山書いてきたんでしょうね、と綻ばれた。不覚にも耳に熱を持ってしまう。
あぁあああうっぜぇええ、意識する俺ほんっとうにうぜぇえええ! その手が小さく柔らかいでござんすね、と思った俺、爆死すればいいのに。
「ケイさん?」
ひとりで身悶えている俺を不思議そうに見ていたココロだった。