青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
無意識に鼓動が鳴るのは何故だろうか。
彼女が幸せそうに好意を寄せている男のことを語っている、から、なのかな。
息苦しいくらい鼓動が鳴る。どことなく胸が痛んだ意味は……。
「ケイさんは凄いですね。私と同じで大人しそうなのに、不良の方と堂々と喋れるなんて。怯える様子とか、全然ないですし」
ふっと微苦笑を零し、かぶりを振る。
俺だってココロと同じように不良に怖じていた。
今も怯えているし、あまり好い印象は持たない。
「初めてヨウと話した時、恐くて恐くて仕方が無かった。表ではヘラヘラしてたけどさ、心の中じゃ恐くて恐くて……あいつの舎弟になった時なんて悪夢だと思ったよ。友達を紹介された時は逃げ出したくてたまらなかった」
真ん丸と目を瞠っている彼女に肩を竦めてみせる。
「同じだよ。ココロと同じで俺も恐かった。それが表に出てないだけ。不良は恐い、俺とは別の人種だって思っていた」
でもこうやってつるんでいる。
それは不良が恐いだけの人種だけじゃないってのが分かったから。
気飾ってもヨウ達だって俺等と同じ十代。
俺等と同じように笑ったり、泣いたり、色んな悩みとか持って生きている。
ココロ、俺は時々思うんだ。
俺は不良と友達になったわけじゃない。ヨウ達自身と友達になったんだって。
不良は恐いよ。
髪はチャラチャラ染めているし、馬鹿ばっかするイメージあるし、何を考えているか読めない。
ヨウ達の不良らしいおサボりとか、言動とか、そういったものに悩まされたりすることだってある。
でも友達だって思っちまうんだよな。不良じゃなくて、俺はヨウ達自身と友達になったんだから。
「今も不良は恐い。情けないことにビクビクしちまう。もしも日賀野が目の前に現れたら、俺はフルボッコされたトラウマが出てきて震えちまう。
ココロが思うほど、俺ってできた奴じゃないんだよ。俺も最初はココロと同じだった」
ココロと同じなんだと目尻を下げた。
静聴していた彼女も俺と同じ表情を作る。
「実は私も、今も恐いんです」
軽く目を伏せ、ココロは穏やかに表情を崩す。
「不良さんは今も恐いです。震えてしまいます。でもヨウさん達はさほど恐くないんです。お友達、だからでしょうね。あ、けれど私、最初からケイさんは恐くなったんですよ」
「それって恐いって言うより、親近感を抱いたんだろ? 俺もそうだったよ」
「やっぱりですか? 何だか安心しますよね。同類の人がいるって」
「そうそう。まさにそれ」
軽く笑いながら俺とココロはレジに向かう。
空いていたおかげで、直ぐに会計を始めることができた。
商品のバーコードを読み取り始める利二は小声で、
「楽しそうだな。これが所謂青春か」
含みある台詞を飛ばしてくる。
カチンと固まる俺は利二のニヤついた顔に気付いて、思わず顔に熱が集まった。
こいつ……。
俺が悪態付く前に「ポイントカードはお持ちでしょうか」利二はどこ吹く風で接客応対してくる。
クレーマーにでもなってやろうかと物騒なことを考える俺の代わりに、ココロが答えた。
「持っていません。五木さん、いつもありがとうございます。私達に手を貸してくれているとケイさんからお聞きしました」
「大したことはしていない。情報提供だけだ」
タメ口に戻る利二はココロに微笑し、大量の商品を次々に精算していく。
くそう、利二の奴。
絶対勘違いしているだろ。俺、お前の思うようなことにはなってないからな!
「田山。不穏な動きが出ているようだ」
と、利二が重たい口で情報を伝えてくる。
「不穏? 日賀野達か?」
真面目な話に俺は眉根を潜めた。
作業の手を止めずに利二は説明してきてくれる。
日賀野とは別の不良グループが不穏な動きを起こしている、と。
日賀野達はそれを懸念しているらしい。
そういう情報を仕入れたと利二は声を窄めながら教えてくれた。
他の不良グループ、か。
ただでさえ日賀野達に懸念しておるのに、また別のグループが出てきたのかよ。厄介だな。
「田山、気を付けろ。どうも相手方は日賀野達、そして荒川達に恨みを持った連中のようだ。関わりを持つお前も向こうの私怨を買っている可能性がある」
「ああ、分かっているよ。利二。いつも悪いな」
「これくらいのカッコつけはしないとな。お前はすぐに無茶をする。何あったら言えよ」
「サンキュ。大丈夫、いつものようにどーにかなるさ」
「怪我ばかりしてるくせにな」
利二は微苦笑を零して、2750円と支払額を言ってきた。
俺は財布を取り出し千円札を三枚出す。
怪我の一件を学習して、常に三千円程持ち歩くようにしたんだ。だから今日は誰かにお金を借りる心配もなく支払える。
けれど俺が出す前に隣にいたココロが三千円を出してしまった。びっくらしてしまう。
「ココロ、俺が払うよ」
「いいえ。ケイさんは自転車で此処まで連れてきてくれたり、荷物運びをしてくれましたので。ここは私が払います」
譲りませんよ、悪戯っぽく笑う彼女に複雑な感情を抱いてしまう。