青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
相手方の反応を窺っていると、ココロがぎゅっとしがみ付いてくる。
せめてココロだけでも安全な場所に避難させたい。どうここを乗り切ろうか。
うんぬん悩んでいた俺達を余所に、「おやん?」「なるほど」不良達が納得した面持ちを作る。
どうしたんだ?
怪訝に観察を続けていると、
「邪魔してはダメね」
帆奈美さんが肩を竦め、
「喧嘩とプライベートは違うからのう」
意味深長に笑う魚住。
自己完結させている不良達についていけず困惑してしまう。
「どちらにせよ、私達も使いを頼まれている。アキラ、今回は引き下がる」
「了解じゃい」
ニシシッ。
嫌味たっらしい笑声を漏らし、魚住がブレザーのポケットに手を突っ込んだ。
その手をすぐに取り出し、素早く物を投げてくる。
片手でキャッチした俺はおずおずと手の平を開いた。
それは半透明な袋に入っている小さな個包装のなにか。
一体何か、俺には用途が掴めない。背後から覗き込んでくるココロも首を傾げた。
はて、これはいったい。
俺達の反応に大爆笑したのは魚住だ。
ヒィヒィ腹を抱えて、膝小僧を叩いている。
憮然と鼻を鳴らす帆奈美さんは、呆れた男だと素っ気無い態度を見せた。
構わずキャツは指笛を鳴らし、「えろゴムじゃい!」涙目になりながら笑い転げる。
鈍感で無知な俺達はようやく察した。
これがなんなのか、どういう時に使用するのかを。
名前こそ聞いたことがある、その避妊具に俺達は絶句するしかない。
「えろいことしたいじゃろうけん、プレゼントじゃい」
囃し立てるようにからかい、魚住は帆奈美さんと共にその場を去った。
残された俺達はただただ言葉を失くすしかない。
こんなものを投げ渡されても困る。
なによりも、ショックだった――ココロとそういう関係に見られてしまったことに、とても。
「け、け、ケイさん。ど、どうしましょう。これ! わ、私達、ごごご誤解されています!」
半べそになっているココロの声によって我に返る。
「すすす捨てよう! えっとゴミ箱、ゴミ箱ッ、チックショウ! こ、こんなの渡してくるなよー! 意味わかんねー!」
投げ渡されたコンドームに悲鳴を上げつつ、俺達は慌ててそれをポケットティッシュに包んでコンビニ前の屑篭に捨てに走った。
これが仮に気遣いだとしても、冗談だとしても、どっちにしてもタチが悪い! ……ホンットにタチが悪いよ。
屑篭の前で言いようのない悔しさを噛み締める俺は俯いてしまっているココロを流し目にし、ぎこちなく視線を戻した。
なんと声を掛ければいいのか分からない。
俺達はそういう関係に見えるのだろうか?
それとも魚住は俺の気持ちを察して、ココロをダシにからかったのだろうか?
もし、彼女にこの気持ちが気付かれたら、きっともう元には戻れないだろう。
それだけ魚住のからかいは俺やココロにダメージを与えた。
もしもココロに負のイメージを抱かれたら、多少ならず俺は傷付くのだろう。
そしてヨウを想う彼女もまた、傷付くに違いない。否、もう傷付いてしまっているのかもしれない。