青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「おや? そこにいるのは学校の負け犬くんたちじゃないか」
廊下を歩きながら駄弁っていると前方から嫌味ったらしい声が聞こえた。
ヤーな予感を抱きながら視線を前に投げる……嗚呼、最悪である。先輩が立っていた。ただの先輩じゃない。
以前、俺達に窓ガラス破損事件の容疑をかけた生徒会会長、須垣誠吾先輩。相変わらずキラースマイルが素晴らしいことで。
須垣先輩を確認するや否やヨウが殺気立った。
皆が皆、揃って須垣先輩を苦手としているんだけど、特にヨウは須垣先輩のこと好きじゃなくて(理由:日賀野に性格がソックリだから!)。
ニッコリと笑ってくる須垣先輩に対し、ヨウは舌打ちを鳴らした。
これでとどまれば万々歳だけれど、そこは須垣先輩である。
こちらの反応が予想できるだろうに構わず、俺達を指差して鼻で笑う。
「そのプリントは、もしかしてもしかすると追試の案内かな? やっぱり日頃の行いが祟ってるんだね。負け犬くん」
「んだとテメェ」
「ま、まあまあ、ヨウ。相手にするだけ無駄だって。行こうぜ。な?」
必死にヨウを宥めた。相手をするだけ俺達が馬鹿を見る。ここはさっさと立ち去った方が賢い。
けれど俺の努力を霧散するように、須垣先輩が見事にそれを打ち崩してくれる。
見下すような目で俺達を眺め、
「パスできたらいいね」
ヒラヒラと手を振って脇を通り過ぎて行く。去り際、俺達に先輩は一言。
「君達のような負け犬が卒業できるのか疑問だよ。せいぜい中退しないようにね」
あははは、君達に学習できる知能があるのかどうか疑問だけど。
笑声を漏らしながら、須垣先輩は大変素晴らしい嫌味を残して行ってしまった。
カッチーンのブッチーン。
俺の隣からそんな擬音が聞こえたのはその直後。
「あ、あああいつだけはぜぇえってッ、ぜぇってえええ!」
「お、落ち着けってヨウ! 喧嘩より勉強が先だろ! 気にするなって、お前ちゃんと点数上がっているんだから!」
「そうだってんぷら。ヨウちゃーん、短気過ぎ。いくらヤマトちゃーんに似てるからってさぁ」
「だっからこの手でぶっ飛ばしてぇんだよ! あんにゃろうっ、鼻で笑いやがってー!」
「バカバカ! 学校で喧嘩を起こしたら洒落になんない……ワタルさーんヘルプ!」
「あーもう。ヨウちん、落ち着いてってばぁ!」
ヨウが握り拳を作って先輩に向かおうとするものだから、俺とワタルさんで必死にそれを止める羽目になった苦労話は余談にしておこうと思う。
閑話休題、小さな騒動はあったけど俺達は無事にMック前まで辿り着く事ができた。
特別な大騒動に巻き込まれることも無かったよ(たとえば喧嘩に巻き込まれるとかな!)。
Mック前には既に中学組や他校に通うシズ達が来ていた。
全員揃ったところで店に入るんだけど、結構な人数だしな。座れるかな。
一応俺達の入ったMックは地元でかなり大きい方だ。店内は一階と二階フロアに席がある。一階は禁煙席。
俺達の中には喫煙者がいるから(未成年だからこっそり喫煙しなければならない)、必然的に二階のフロアに上がることになる。
一階は結構な人数が埋まっていたけど、幸いなことに二階はそうでもなかった。
談笑しているカップルや勉強している団体様がチラホラ。俺達も安心して勉強に励むことができる。
窓側の隅の席を陣取って俺等はテーブルをくっ付ける。
マナーとしてどうかと思うけど二階は人数が少ないしな。他の客も気にしてないみたいだし……腹ごしらえをして勉強しようっと。俺は主に勉強を見る方だけどさ。
既に頼んでおいたトレイを片手に皆、それぞれ席に着く。
俺もヨウの隣にトレイを置いた。
「俺っちケイさんの隣!」
元気よく俺の左隣を陣取ってくるキヨタに苦笑いを零す。
ほんと俺に構ってくるようになったな。
最初はあれほどヨウ、ヨウ、よう! と、はしゃぎ回っていたのに。
見上げてくるキラキラとした眼に若干引きつつ、俺は何気ない気持ちで視線を持ち上げる。
硬直してしまった。
向かい側に腰掛けようとしていた相手もカチンと固まる。
「け、ケイさん」
「こ、ココロ」
嘘だろおい。真正面にココロが来ちゃった、とか。
揃って素早く視線を逸らした。これはやばい、大変まずい。気まずい。彼女が前方にいるだなんて、どんな試練?!