青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「な、なんで俺に振るんだよ。自分が美味そうって言ったんだから、お前が貰えよ」
「いや、こういうのは皆でやるのが美味いんじゃねえか」
「バーカ。あんた等が食ったら可愛いココロのアップルパイが無くなっちまうだろうよ。お断りだ、お断り。手前で買って来い」
シッシと響子さんが手で俺達を払う。
「それよりケイ、あんたのナゲット美味そうだな。梅ソース味なんだろう? 限定商品らしいじゃねえか」
「あ、一個食べます? あげますよ。五個も入っていますし」
「そういやココロ、あんた梅好きだったな。一個貰ったらどうだ?」
「へ?」自分に話題を振られると思っていなかったのだろう。ココロが間の抜けた声を上げた。
「で、でも」
「美味かったら買ってきてやるよ」
響子さんがフッと笑みを浮かべる。妹分馬鹿が発動しているようだ。
追い込まれたココロが俺を一瞥してくる。
困惑した面持ちで助けを求められても困るんだけど……ああもうっ! 分かった。わーったよ! 助けてあげるってば!
「まだ俺も食べてないから、ココロの感想が欲しいな。はい、これ」
ぎこちなくだけど、ちゃーんといつもどおり話しかけられた気がする。
ソースをココロの前に置き、ナゲットボックスを差し出した。
少しだけ緊張が取れたように笑みを浮かべたココロは1ピース、指でつまむ。
彼女と視線がかち合った。
あの日以来振りに、自然に頬が崩れたのは何故だろうか。
「わぁ。ケイさんとココロさんって、とってもあれっス。お似合いっス! そういうやり取り、恋人みたいッスよ!」
俺等の様子を見たキヨタが無邪気な笑顔を作って爆弾発言。
ココロがナゲットをボックスの中に落とし、俺も直後にナゲットボックスをトレイの上に落としてしまう。
「おまっ、何してやがるんだ馬鹿!」
ヨウの叱咤に、キヨタがキョトン顔で首を傾げた。
「だってそうじゃないッスか。まさに、今のやり取りは恋人の」
「キヨタのKYィイイ! なんのために、ヨウさんと響子さんが場の空気を和ませようと……この阿呆!」
ギャンギャンと喚くモトに、
「し。しまった!」
うっかりしていたとキヨタが両手で口を塞ぐ。
今のはナシだと慌てて撤回を求めるけれど、時既に遅し。
俺達は気まずさのあまりに身を小さくする。
ヨウと響子さんの話題は俺達の空気を緩和させようと意図したものだったのか。気付けなかった。こんなにも皆から気遣わせていたのか。
俺が変に意識しちまったせいだ。
ココロには別に好きな人がいる。それを知っている。
なのに俺が魚住事件で変に彼女を意識してしまったから。
否定だ、とにかくまずは否定しないと。
「バッカ。俺とココロがなんだって? キヨタ。お前、冗談上手いんだから!」
チビ助の頭をかいぐりかいぐりしてやる。
「アイタタッ!」
悲鳴を上げるキヨタに、
「俺達はそんなんじゃないって」
地味だからってカップルに仕立て上げるのはどうかと思うぞと、首を絞めてやる。
アップアップしている弟分を余所に、「な?」ココロに同意を求めた。
見る見る彼女が自然の笑みを零す。どことなく翳(かげ)りある笑みだけど、気付かぬ振りをした。
「ふふっ、そうですね。お洒落さんの集団に入ると、そういう風に見られがちですよね」
「ほんとにな……ココロ、ごめんな。もう俺、あの事は気にしないようにするからさ」
「私もです。もう気にしません。ケイさんとは好いお友達だと思っていますから」
「うん、そうだな。友達以上はないしな」
胸が痛んだ。
自分で言ってなんだけど、片隅で傷付いている俺がいる。
そういう目で見られる可能性がないと肯定することがこんなにも切ないなんて。
けれど、どこかで区切りをつけようと思う俺がいる。
そうだよな、変に意識している俺が馬鹿みたいじゃないか。ココロには別の好きな人がいるんだから。
もうやめよう、彼女を意識するのは。
これからも俺とココロは親近感抱く地味友だ。
「そういう目で見られると困るよな」
やめようと思ったから自然に笑える。
「はい」
ココロも自然と笑っていた。
これでいいんだと思う俺がいる。諦めに近い気持ちが胸を支配した。