青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「買出しの日に俺達、からかわれたんだ」

「からかわれた? 誰に?」

「……魚住に」


「はあ?! アキラに会ったのかよ!」


ヨウは聞いてないと抗議した。


「だって言ってねぇもん、そりゃ聞いてないだろうさ」


ケイが決まり悪そうに顔を顰める。

曰く、買出しの日にアキラと帆奈美に会ったというのだ。

どうしてそういう大事なことを報告しないのだとヨウは些少の怒気を抱く。

もしも何か遭ったらどうしたのだとお小言を漏らしつつ、続きを語るように促した。

躊躇しているケイは目を泳がせながら、言葉を選んでヨウに伝える。


「情報がお互いに欲しいだろうからお茶をしないかって誘われたんだけど。勿論、そんなことができるわけもなくって。俺達、断ったんだ。
そしたら、魚住が俺達の関係をどう思ったのか……ゴム、投げつけてきて」


ゴム?
冗談でも輪ゴムではないだろう、この場合。


「もしかしてセフレにでも見られたのか?」


ヨウがつい思ったことを口走る。

途端にケイが石化した。


「せ、ふれ。そんな、俺とココロが並んで歩くとそういう風に……ああもうダメだ」


大ショックを受けてしまうケイにしまったと思いつつ、ヨウは自分なりに整理することにした。



「なるほどな。じゃあ、買出しに行ったお前等はアキラたちに遭遇した。そして」


「ヤッているように「セックスしているように見られた」お前最悪! 露骨にその単語を出すなよ! 俺、遠回しに言おうとしたのにぃいい! チクショウ、どーせ俺は童貞だよ! ヨウみたいに単語慣れしてねぇよ!」



いや、お前の童貞事情は聞いてねぇよ。

心中でツッコむヨウは、半狂乱になっているケイに呆れてしまう。


舎弟がズンズンと歩んできた。

据わった眼に思わず後退しそうになるが、彼がそれを許してくれない。詰め寄って質問を浴びせてくる。


「正直に答えてくれヨウ。俺とココロって、傍から見たらっ、ヤッ、ヤッているように見えるか?」


目を点にするヨウに、


「俺ってそんなにエロそうな男に見えるか?!」


タラシに見えるなら、死活問題だとケイが捲くし立ててくる。

もはや舎弟は半べそである。


「真の友達ならな。嫌なところも指摘してくれるもんだぞ!」

ブレザーを掴んでぐわんぐわん揺ってきた。


「ば、馬鹿落ち着け! お前ひとりでテンパんな!」

「お前が言わせたんじゃないかぁあああ! 責任取れイケメン!」


「完璧に責任転嫁じゃねえか! 大体な、男はエロイ生き物だ。多少はエロを考えてもしゃねーねぇんだぞケイ! 女体に興味は勿論」

「あるに決まっているだろ! 男の子だもの!」


阿呆な漫才もそこそこに、ヨウはケイを落ち着かせるために返事してやる。

そういう関係には見えない、と。


寧ろあまり想像がつかないのだが。

二人が濡れ場乗り越えちゃいました、など……ケイもココロもそういうのに関しては消極的そうだ。


真面目な奴ほどエッロイとは聞くが、二人に関しちゃまず青春くさいベタな恋愛を見ている気分になる。無縁も無縁な気がした。


「本当か?」


ケイが探りを入れてくる。

「うそは言ってねぇよ」

ヨウがひらひらっと手を振った。


「それともなにか? テメェ、ヤりてぇの?」

「ばっ?! ば、バッカ! ちげぇよ馬鹿!」


だろうな、ヨウは納得する。食い下がってくるケイを一瞥した。


「まとめるとさ、お前等はアキラにからかわれたせいで、周りに変に見られていないかどうか気になった。だから気まずくなったんだな?」


こくんと舎弟が頷く。


「それって結局、お前が相手を好きだから意識したんじゃないか?」


ヨウは眦を和らげた。

鳩が豆鉄砲を食らったように目を白黒させてしまうケイに畳み掛ける。

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