青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「コンドームの一つでも備えとかんとガキができて、高校中退するハメになるんじゃ。感謝せえよ」
か、感謝なんてするもんかー!
俺等、そういう関係じゃないんだからなっ……いやでも確かにココロを意識はしているけど。変に意識はしちゃっているけど。
ああもう、俺の意気地なしのナメクジ! 変に意識する俺、乙過ぎる!
俺は居た堪れなくなって頭を抱えてしまう。
傍らではココロが「そんなんじゃないのに」と、顔を隠して赤面。
身悶える俺等を見た響子さんが、更に青筋を立てていたことは知る由もない。
ケタケタと笑う魚住だったけど、キャツの足を踏んで笑声を止めてくれたのワタルさんだった。
「アウチッ!」
悲鳴を上げ、ピキッと青筋を立てる魚住に対し、ワタルさんがニッタァと嫌味ったらしい笑顔を浮かべた。
「アキラにはそういうヤーらしい悲鳴の方がお似合いよんさま。ぐへへっ、もっと聞かせて欲しくなったっぴ」
「悪趣味じゃのう、ワタル」
「悲鳴は何よりのご馳走だってーの」
「やっぱり悪趣味じゃのう。じゃが、ワシと趣味は合う。ワシも聞きたいのう、お前が泣き叫んで許しを請う悲鳴を」
青い火花を散らす両者。
恐いのなんのって、もはや俺の口から説明するのも難しい。
だけどワタルさんのおかげで助かった。
これ以上からかわれたら俺、いや俺達、多分生きていけなかったよ。爆死しかねなかった。
俺達を助けてくれるために行動を起こしてくれたかどうかは分からないけど、本当に助かった。ありがとうワタルさん。
「シーズーゥウウウ! ここで会ったが1309回目! 勝負しろ! 今すぐ勝負しろ! 尋常に勝負しろぉおおお!」
……なんだ、この妙に暑苦しい男は。
身悶えていた俺は吠えている不良に目を向ける。
吠えているのは白髪頭の不良。少し前のキヨタみたいに真っ白しろの短髪だ。
カラコンしているのか瞳が赤い。
なんだか見るからに熱血漢だな、こいつ。
「誰なんだろ」
俺の呟きに、こっそりとハジメが教えてくれた。
奴の名前は伊庭 三朗(いば さぶろう)。
中学時代につるんでいた奴の一人だったんだと。
グループの分裂事件で日賀野側に付いたらしいんだけど、それ以前から伊庭はシズをライバル視していたとか。
シズは眼中にもないようだけど、伊庭は何かと彼に突っ掛かっているらしい。
「でも何でライバル視してるんだ?」
「あー……ほら、シズっていつも眠そうだろ? あのやる気のなさが、妙に気に食わないらしいんだ」
えー、そんな理由で? そりゃシズにとっちゃ、いい迷惑だろーよ。
俺と同じ事を思っているようで、シズはえらく不機嫌そうにハンバーガーに手を伸ばして包装紙を剥がし始めた。
「こらシズ! 勝負しやがれ!」
吠える伊庭に煩いと一蹴してハンバーガーにかぶりつく。
眼中にないどころか、相手にすらしないらしい。伊庭の吠え言を綺麗に無視している。
「シズ! 今日こそお前を伸してやる! 表に出やがれっ!」
シズ、無視。
「お前の涼しげな面なんて一瞬で崩してやるんだからな!」
シズ、総無視。
「ああくそっ、テメェ少しは反応しやがれ! 一人で喋っている自分がバカみてぇだろうが!」
……シズさん、変わらずにハンバーガーを咀嚼中。
なんだか向こうの不良が哀れに見えてきたよ。
シズ、少しは相手してやれよ。
あいつ、吠えっ放しだぞ。無駄吠えばっかだぞ。無駄吠えの後に残るのって虚しさじゃね?
「うっせぇなゴラァ。そこの不良黙れ。吠えるな。うぜぇ」
ひとり黙々と生物Ⅰの勉強をしていたタコ沢が伊庭の吠えに文句垂れた。
いやいやいや、タコ沢さん。あんたと似た類だろ、あれ。あんたもよーく吠えるだろ。
「ンだとタコ。でかい面してるんじゃねえぞ!」
伊庭の吠えに、タコ沢が青筋を立てた。嗚呼、タコは禁句なんだけど伊庭さん。