青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
ダン――!
タコ沢は教科書をテーブルに叩き付けて椅子を倒した。
「誰がタコだと。イカみてぇな白い頭しやがって」
あんたはタコみたいな頭だろ! なんてツッコめない俺。言えたらどんなに清々しい気分だろ。
「なッ、誰がイカだッ。伊庭さまって名前だ!」
「イバもイカも同じだっ、貴様は今日からイカバだ! 反対から読めばバカイ。バーカ!」
「こ、こいつッ、い……イカと同類にする上に馬鹿呼ばわりッ、お前ッ、今すぐ表に出やがれー! ギッタンギッタンのケッチョンケッチョンにしてやる!」
「上等だゴラァアア! 返り討ちにメッタンメッタンのボッコボコにしてやる!」
……あーあ、熱い。暑い。アツイ。
なんてむさ苦しい喧嘩なんだ。しかも両者、語彙力がねぇのなんのって。
今時の不良がよ?
ギッタンギッタンとかメッタンメッタンとか、そんなダサイ擬音語使わないだろ。
も、アンタ等の喧嘩、今からイカタコ合戦って命名してもいいか?
伊庭改めイカバとタコ沢が火花を散らしている一方で、中学生組も火花を散らしていた。
さっき仲間からホシと呼ばれたピンク髪の奇抜な不良がモトのなりを見て鼻で笑っている。
ピキピキっと青筋を立てるモトに「ヨウのイヌ」ケラケラと小ばかにして笑声を上げた。
「ホシっ、おな中ってだけでも腹立たしいってのに此処で会うなんてっ。ああっ腹が立つっ! このカマネコ!」
「ひっどー! 一応ボク男なんですけど。あーヤダヤダ。脳のない生き物って」
向こうは向こうで火花を散らしているみたいだ。
ホシとモトって同じ中学なんだな。
あ、そりゃそうか。
ヨウ達って元は同じ中学の不良で一つのグループだったわけだし。
モトはヨウ達の中学の後輩に当るわけだ。まだ卒業していないホシとモトは必然的に顔を合わせるよな。
複雑だろうな、対立している不良と同じ中学に通うっての。
ほんと、中学時代に縁があったヨウのところの不良と日賀野のところの不良は仲が悪いな。
まだ向こうに仲の悪い不良がいるかもしれないけど、後ろで見守っている奴等は今のところ突っ掛かってくる気配はない。おとなしく騒動がおさまるのを待っている。
俺等も一部を除いて高校からつるむ面子はおとなしく騒動がおさまるのを見守るしか術がない。
別段、向こうのチームに仲の悪い不良がいるわけじゃないしな……俺のトラウマはいるけど。
早く日賀野達が向こうに行ってくれないかな。
このままじゃ勉強どころか、店を追い出されちまうよ。見ろよ、客達が俺等に注目しまくってるぜ。
はぁっと重々しく溜息をついて騒動を見守っていると、
「田山圭太」
背後にいたひとりの不良がおもむろに俺に歩み寄って来た。
髪の色はおとなしめの茶色。帆奈美さんよりも暗いダークブラウン色の髪を持った不良が歩み寄って来る。
おいおいおい、マジかよ。
なんで見知らぬ不良が俺のところ……その瞬間、不良を凝視してしまう。
「なんだよお前」
傍らにいたキヨタが弟分魂を発揮して前に出た。
相手は表情一つ変えず、俺を見据えてくる。