青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―





「久しぶりだな圭太。おれと反対苗字の一文字違い。お前の噂、聞かせてもらっているぜ?」



どことなく哀しそうに笑う不良のそいつを、俺はよーく知っている。


だってそいつと俺はとても仲が良かったんだ。

中学時代、毎日のように一緒に遊んでいた地味友。親友と言っても過言じゃない。


「ケイさん。知り合いですか?」


キヨタの問い掛けにより、現実に返る。


「健太、じゃないか。俺と反対苗字で一文字違い。なんでお前が此処にいるんだよ……まさか」


まさか、なんて大それた言葉を使わずとも理解してしまう。

だからこそ愕然としてしまった。中学時代の友達が日賀野のチームにいる、その現実が信じられなかった。


「ケイ。知り合いかい?」


見かねたハジメが声をかけてくる。小さく頷き、重い口を開いて説明した。


あいつの名前は山田健太。

苗字を反対にすりゃ俺の苗字になる上、名前が漢字一文字違いのミラクルで仲良くなった中学時代の同級生。


あの健太が不良になっちまっているなんて。


進路が不良校だというのは知っていたけれど、よりにもよって日賀野のチームに属しているなんて。

おとなしめの色に髪を染めているけれど、奴は確かに不良だ。


着崩した制服に、耳たぶにあけているピアスの穴。ふんわり香ってくる香水。中学時代の面影が見当たらない。ぶっちゃけ俺よりイケてね?


「健太が、俺の健太がこんなに不良になっているわけがない! 同レベルだったあいつが、レベルアップしているだなんて!」


ぐわぁああっと頭を抱え、「お前は本当に山田健太か?」と相手を指差す。


「俺の知る健太はな、プラモデルが好きだった。中学二年の時、お前が俺にガンプラ作りを手伝わせたプラモデルの名前は?」

「ウィングガンダムゼロ。一週間と三日掛かったことをよーく憶えている」


質問によって健太の表情が変わる。

変わったっつーより、俺の知る健太の顔を作って答えてくれた。


そうそう。ウィングガンダムゼロ。

ひたすら部品を切ってやすりを掛ける作業を手伝わせたんだよな、健太。塗装や組み立ては一切させてくれなかったんだっけ。


「じゃあ俺がとあるプラモデルを“飛行機”と呼んで、お前が俺に説教した、あの名称は?」

「零戦だろ! カッコイイ戦闘機なのに、お前ったら『あ。変な飛行機』とか言いやがったよな! 零戦は男のロマンだぞ!」


あの時も同じことを言われて説教されたよ。

ガチキレ一歩手前だったっけ。目が据わってたもん、当時の健太。


「最後にクイズです。ずばり俺と健太のコンビ名はなんだったでしょうか?」


健太は指を鳴らし、意気揚々と返答した。


「お答えしましょう、圭太さん。答えは苗字を掛け合わせて“山田山(やまださん)”というコンビです。
しかし何故か圭太さんは“田山田(たやまだ)”と呼び難いコンビ名を付けましたね。山田の方が苗字的に多いんだから山田が先って名前を……しまった。ついついアホな問題に乗ってしまった」


額に手を当てる健太はつい乗せられてしまったと落ち込んでいる。

やっぱりお前は健太だ。

相変わらずノリが宜しい。

調子乗りの俺が言うんだ。



目の前の不良は正真正銘、山田健太だ。



健太も結構なまでに調子乗りで、一人漫才気質。相手に乗せられやすいタイプだったしな。


……けど、なんで、お前が不良に? 


空気を読んで髪は控えめなダークブラウンにしてるみたいだけど(地味が不良デビューしてもなっかなか似合わないもんな)、地味で表向き控えめだったお前が日賀野のチームメートだったなんて。嘘だろ、なあ健太。

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