青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―


 
自分の中の嫌な予感が膨張する。


片隅で本能が警鐘を鳴らしている。


仲の良かった健太との関係が変化する、してしまう、と警笛が甲高く鳴り響いている。


それを振り払うように俺は健太を改めて見据えた。

傍から見りゃ控えめな不良だけど、中学時代の健太を知っている俺からしてみれば違和感ありあり。


違和感というより、今の健太を受け入れられない俺がいる。


だって俺の中じゃ、まだ、健太は地味のまんまなんだぞ。

受け入れられるわけ無いだろ。あの健太が俺等と対立しているチームに属しているなんて。


「お前が荒川庸一の舎弟をしているなんてな。信じたくなかったよ」


健太が苦々しく笑ってきた。


「嫌って程お前の噂は聞いている。圭太の活躍がおれ等の妨げになっていることも知っている……なんでだよ圭太。なんで荒川チームなんかにいるんだよ」


動揺している俺に、「どうしてヤマトさんの誘いを蹴ったんだ」詰問してくる。

答える余裕すらない此方に容赦なく、健太は舌打ちを鳴らして顔を顰めた。


「お前は馬鹿だ。大馬鹿だ。なんで荒川を選んだんだ。よりにもよって、おれ達の潰したいチームの頭の舎弟だなんて」


健太の口調がだんだんときつくなっていく。

まるで俺の非を責め立てるように健太は悪口(あっこう)を吐いた後、落ち着きを取り戻してまた一つ微苦笑を零した。


「おれも人のことは言えないか」


おれだってヤマトさんを選んだんだから。


意味深に台詞を吐いた健太に哀愁が漂っている。

俺自身も胸の内が痛くなった。


ワケ分からねぇよ、お前がそっちのチームにいるなんて。


んでもって空気を読んじまうじゃないか。

俺と健太の今後の空気、嫌でも読んじまうだろ。

俺はヨウのチームにいて、向こうは日賀野のチームにいる。嫌でも分かるだろ、この先の未来がさ。


何でもっと早くっ、言ってくれなかったんだよ。

何でもっと早くっ、不良になったって……言ってくれなかったんだよ。


何でもっと早くっ、俺は健太に連絡を取らなかったんだろ。舎弟になっちまったと言っていれば、メールをしていれば、何か変わったかもしれないのに。


知らず知らず握り拳を作ってしまう。


俺と健太は中学一年の時に出逢った。

これいってインパクトのある出逢い話はない。


敢えてあげるとすれば、同じクラスになった健太から「おれ等って苗字が反対で名前が一文字違いじゃね?」と、軽く声を掛けられて友達になったことくらいか。


俺も健太も地味の類いなだけあって、とても馬が合った。

いつも一緒につるんでいた。

学校はもちろん、プライベートでもよく遊んだ。頻繁にお互いの家に遊びにも行っていたし、俺の家に泊りにも来ていた。


別の高校に進んでも最初の内は卒業しても連絡を取り合ってたんだ。休日になると遊んでいた。


俺がヨウの舎弟になり始めた頃か、そのちょっと前だった頃か、お互いに連絡メールが極端に少なくなったんだけど、高校生活が忙しいんだろうと割り切っていた。

長期休暇に入れば遊びの誘いを入れよう、なんて思っていたのに。


こんなのってないだろ、なあ、健太っ……。


周囲が因縁の対立の火花を散らしている最中、俺等は火花すら散らせずに佇んでいた。

ただただそこだけ時間が止まったみたいに、俺等はそれ以上の会話も交わせず、佇んでいた。


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