青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



それから一時間、俺等はピッリピリとした空気の中で勉強をしていた。



お互いにあんまり勉強は捗ってないみたい。

やたら滅多ら舌打ちやら茶々や悪態やらが席同士で飛び交っている。


俺は別に追試組じゃないからいいけど、ヨウとか、ワタルさんとか、シズとか……中学の頃に因縁がある不良達は全然勉強ができていない。


採点してやるんだけど、正解率がガクンと下がっている。


十問中三問あってれば良い方だ。

ヨウの奴、折角数学半分以上合うようになったのに、近くに日賀野がいるせいで集中力が切れちまったみたいだ。


また、意外なことに日賀野も追試組だったようだ。

向こうの会話に聞き耳を立てていたら、追試の日時とか、科目名とか、そういった話題が聞こえてくる。


時折、「何だこの公式」日賀野の愚痴が聞こえてくる。

悪知恵は働くけど勉強はできないタイプなんだな、日賀野って。その悪知恵が恐いのも確かなんだけどな!



―――バンッ!



突然、テーブルを叩き壊さんばかりの馬鹿でかい音が聞こえた。


なんだ? 向こうに視線を投げると、イカバ(サブと呼ばれていた熱血不良)が椅子を倒して集中できないと苦言。

それもこれも俺等がいるせいだよ指差してきた。とんだクレームだな、おい。


「ええい、ヨウ! その他の仲間! さっさと店から出て行けー! お前等のせいで集中できないっつーの!」

「サブ。無闇に喧嘩を売らない。事態がややこしくなる」


帆奈美さんがイカバを咎めているけど、キャツは知らん顔。俺等がいるだけでムシャクシャすると吠えていた。

髪を振り乱して「うざったぃいいい!」と叫ぶ始末。お前が一番うざったいぞ、イカバ。吠えるなって。


「ッハ、人のせいにしねぇと点数も稼げねぇってか。あのイカさまは」


そしてお前がしゃしゃり出てくるんだからもう。

タコ沢、引っ込んどけ。話がもっとややこしくなるから。

しかし遺憾なことに既に話はややこしくなってしまったようだ。大層な言い草にカッチンきたイカバが立ち上がる。


「クソタコが」


禁句の悪態をついたせいで、「やるってか?」ガチンとキレたタコ沢。闘志を滾らせる不良二人が熱いのなんのってむさ苦しいの一言に尽きる。

イカバが先陣を切ったせいか、完全に集中力が切れていたワタルさんがニッタァと意地の悪い笑みを浮かべながら頭の後ろで腕を組む。


「ここで決着付けてもいいんじゃナイナイ? どーせどっちも顔が揃っているだろうし?」

「そりゃ良い考えじゃのう。ヤマトー、ワシだけでも喧嘩してきてよかろう? あいつ、ぶっ飛ばしたーいのん。追試はしかとパスするからぁ」


魚住がワタルさんを指差した。


「お相手してっちょ」


ぶりっ子口調に言う魚住に、


「うれぴぃ誘い」


ワタルさんもぶりっ子口調に言葉を返すけど目が笑っていない。ちょ、恐いって、あんた等。


一触即発な空気を作り始める魚住とワタルさんを止めたのは、


「ワタルやめろ」


こっちから副リーダーのシズ、「アキラ構うな」向こうチームからススムと呼ばれる不良だった。


タコ沢と同じ赤髪だけどめっちゃクールな面をしている。

今にも暴走しそうな魚住を止めていた。


立ち位置的にシズだな、あいつ。多分副頭を務めているんだと思う。


一点、シズと違うところを挙げるとしたら秀才っぽい雰囲気だろうか。

シズとハジメを足して二で割ったような空気を醸し出している。髪の色に反して激超クールなんだ。

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