青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―





「まあまあ、喧嘩はヤメて~ほら~、折角、みーんなで顔を合わせたんだから~? しかも今は喧嘩目的じゃないし~? もっとリラ~ックス。なかよ~く」



突如、空気の読めていない発言をしたのは向こうのチームの不良。


ヘラヘラヘラヘラと笑っている眼鏡っ子の女不良(に見えないけど多分不良)は、マイペースに「はいスマ~イル」と俺等に笑顔を作るよう言ってくる。


どうやら女不良はヨウ達の中学時代の因縁には携わっていない奴らしい。

ヨウ達も誰だコイツ、と怪訝な顔をしている。



名前はアズミというらしい(今のところ苗字は分からない)、とてもマイペースな不良女の子だ。


あんま俺等の仲を気にしてない子みたいで、「どもども~」俺等に手を振って挨拶してくる。これでは調子が狂ってしまう。


「コラ、アズミ!」


イカバが何を馴れ馴れしくしているんだと咎めた。アズミは気にすることなく俺等に親指を立てて一言。



「不良は萌えだよね~。みんなイカす~。一部を除いて乙女ゲーに出てきそう」



……萌え。乙女ゲー。 

さてはこいつ、オタ系なゲーマーだな。不良なナリしているけど……てか“一部を除いて”乙女ゲーに出てきそう? それって十中八九俺のことだろ!

どーせ俺はイケてねぇよ!
乙女ゲーに出てもメインじゃなくて、助言するキャラに当て嵌まるような奴だよ、ほっとけ畜生!


「あーあ、ゲームしたい。ゲームに恋したい。萌えたい」


アズミは勉強ツマンナイとペンシルを投げる。

空気は淀んでいるし、気まずいし、居心地悪いし。もっと楽しくしようよー、なんて無茶振りを言うもんだから俺は心底呆れた。

仲良く出来ていたらヨウ達はグループ分裂なんてすることも無かっただろーよ。対立なんて起きなかっただろーよ。


「中学時代は仲良かったんでしょ?」


アズミは積極的に俺等や、向こうのチームと、今だけ交流を深めようと話を持ち出す。

中学時代という単語に、因縁がある不良達は眉根をつり上げた。


「そーいや中学時代。どっかの馬鹿がガラスを割りやがって、近くにいた俺にまで飛び火してきたっけなぁ」


日賀野が忌々しく舌打ちを鳴らした。


「俺のせいじゃねえだろ」


どっかの馬鹿改めヨウが大反論する。


「ありゃどっかのアホが、俺に向かってボールを投げ付けてきやがったから、それを返したまでだ。なのにどっかのアホが避けやがって……あーあ、ボールが恐くて逃げちまうアホのせいで先公に説教。思い出しただけでもムカつく」

「ノーコンがボールを投げたからガラスを割る」


「俺は顔面向かって投げたんだけどな?」

「それがノーコンだって言ってるんだ。単細胞」

「最初の原因はお前だろ」


バチン。 


二人の間に青い火花が散った。

嗚呼、ちょ、中学時代の思い出話はタブーだったんじゃ。


「中学時代かー。そうじゃのう……っあ、ワタル、お前に貸した千円、返してもらってないぞい」

「何言っているだよんさま。利子付けて払ったってぇ」

「いいや、その後また貸した。わしはよう憶えとる」


「勝手に記憶を捏造しないでくれるー? 僕ちゃーん、返したもんは返した。ボケでも始まっているんじゃないのんさま?」


……こ、こっちでもなんか雰囲気悪くしているし。ワタルさんと魚住の仲、ピリピリしてきたし。


「ろくでもねぇ中学時代だった。なんでつるんでたんだか」

「貴方もろくでもない。響子」

「おーおー言ってくれるじゃねえか。帆奈美。アンタはろくでもあるってか?」

「少なくとも貴方より。貴方は暴力ばかりに走る。愚か」


ええええっ、響子さんと帆奈美さんって仲が悪かった系?!


「貴方嫌い」


フイッと顔を背ける帆奈美さんに、「嫌いで結構だ」やっぱり腕を組んでそっぽ向く響子さん。


おいおいおい、さっきよりも空気が悪くなってきたぞ。

やっぱり中学時代の話題はタブー中のタブーだったんだって。

< 315 / 845 >

この作品をシェア

pagetop