青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「お前は俺に死ねと?」
おどけ口調で突っ返すと、「だよなぁ」一変して健太が苦笑を漏らす。
いつもの調子で会話をする、これが凄く心地が良い。
俺と健太って相当馬が合う方だったから、こうやって会話するだけでも楽しいんだ。
だからこそスゲェ心苦しい、今のこの状況が。
走馬灯のように健太と過ごした日々が蘇ってくる。
あいつも俺と同じようにノリツッコミが良くて、ゲームもかなりする方。
くだらない事で漫才をし合った。
チャリを使って二人で遠出をしたこともあったし、泊まりに来たことも行ったこともあった。三年間って短いようで長い。
俺にとって中学時代の一番の友達は健太なのに。なのに。なのに少し境遇が変わっちまっただけでこんなに辛い想いするなんて。
俺が日賀野の舎弟になれば、また別の道を歩んでいたかもしれないけど、俺はヨウ達を裏切れない。
今更裏切れるわけがない。
「おれはヤマトさんのチームメート。圭太は敵方のリーダーの舎弟。おれもお前も、引くことは出来ない、か。なら、しゃーない。道は一つだ」
独り言を呟いた健太がそっと瞼を下ろし、ゆっくりとそれを持ち上げた。
意思を宿した瞳を俺に流し、前触れなく利き足を振ってくる。
「うわっつ!」
なりふり構わず紙一重に避けた反動で体が傾く。
そこを突いて、健太が胸倉を掴んで引き倒そうとしてきた。
かろうじて足を踏ん張り、体を持ち堪えることに成功した俺は何をするのだと相手を睨んで喝破する。
「ケジメだろ」
相手が冷淡に笑みを浮かべた。演技が下手くそすぎる。声が震えてやんの。
「おれ達は対立する。分かるだろ、圭太っ……おれは向こうのチームを裏切れない。お前もそうだ。じゃあ、こうするしかないんだよ。分かるだろ、なあっ!」
豹変したように声を荒げてくる健太に俺は顔を顰める。
「分かる。分かるけどっ、分かりたくねぇよッ! だって俺っ、お前を……簡単に捨てられるわけないだろ!」
「おれだって、おれだってそうだよっ! けどな……邪魔になるんだよ。中学時代のおれ等の関係は!」
分かっている。
それも全部分かっているよ。
俺等は健太の属するチームを潰したいし、健太は俺等のチームを潰したいんだ。
中学時代の俺等の関係は今のチームにとって邪魔になるほか何物でもない。そりゃ分かっているけど!
「もし、まだ迷っているなら、こっちに来い。圭太。ヤマトさんはお前に目をつけている」
ぎらついた眼を見つめ返し、
「無茶苦茶だよお前」
どんだけ俺を苦しい立場に追いやりたいんだと苦言する。
「だよな」
微かに表情を緩めた健太は、ならこれしか道はないのだと俺に諭してくる。
そうは言っても俺……お前といつまでも友達でいられると思っていたんだ。
お前が不良になっても、ちっとも恐くないのはお前が友達だって思っているからなんだぞ。いつもだったら不良を見て心中大号泣なんだ。
お前だから、怖くないのに。俺達、中学じゃいつも一緒だったのにっ、どうして、こんなことに。
どうしてヨウ達の友情を守るために、健太との友情を捨てることになっちまったんだよ!
悔しくて、悔しくて、くやしくて、健太を含む夕焼けの世界が滲んだ。