青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「お前とは……絶交だ」
静寂の中にぽつんと落とされた絶望。
胸倉を掴んだまま、不良は決別を告げてきた。キャツの体が大きく震えている。
辛い気持ちを抑えに抑えて、俺のために嫌なことを先に言ってきてくれるんだなお前。
絶交しようとしている人間が何、相手のことを気遣っているんだよ馬鹿。やることがカッコイイんだよ。
「頼むから言ってくれよ」
ダンマリになっていると懇願の声が鼓膜を打つ。
このまま黙然を貫いたらどうなるんだろう。
俺達の関係は終わらずに済むのだろうか?
曖昧なまま、終わることも始まることもできずに済むのだろうか?
けれど、俺達は終わらないといけない。
それが俺達の決めた道なのだから。俺達は過去じゃなく、今を取った。
「ああ、絶交……だよ」
情けないことに、俺の声もまた震えている。
もう遊ぶことも、連絡を取ることも、気軽に話すこともできないんだな。俺等。
健太、笑えるな。
ちょっと道が違っただけで俺等、もう友達じゃないんだぜ? 友達でいられないんだぜ? 変に笑えてくるよ。
終わりは呆気なく、高架線の下では変わらず川面が静かに俺達を見守ってくれている。
鮮やかな夕空を見つめていると、
「クソ食らえ」
不良も、舎弟も、チームもクソ食らえ。
腹の底から呻いて、人の胸倉を掴みなおした。
「いいかお前を潰すのはおれだ。憶えとけ。おれはお前を憎む。荒川を取ったお前を、ヤマトさんの誘いを蹴ったお前を、これから敵対するお前を憎み続ける。憎み続けてやる! 誰でもないおれがお前を潰してやる! ――じゃあな圭太。今までサンキュ」
無防備の人間の鳩尾を突き、人を怯ませる狡い不良は、そのまま俺の身を投げた。
身構える余裕もない。
足を踏ん張ることも出来ず力負けした俺は、ただただ目を見開き、なおざりに川に落ちてしまう。
まさかの事態に何がなんだか分からない。
自分の背丈より少し深い川に危機感を感じ、自力で浅瀬までもがく。
おかげで大事には至らなかったけど、ずぶ濡れになっちまった。
おいおいおい、この制服がびしょ濡れになっちまったぞ。なんてことしてくれるんだよ。明日も使うんだぞ。
咳き込みながら岸に這い上がった俺は文句の一つでも言おうと思って健太の姿を探す。
けどあいつはもういなかった。
俺が川に落ちた隙に走り去ったようだ。道の向こうに駆けている不良を見つける。制服の裾で目を擦っている不良に俺は顔を歪めた。
「泣きたいのは俺だって」
川に落とされたんだぞ。三年使う制服が川の水で汚れちまったんだぞ。泣きたいのはこっちだ。
何が憎むだ。何がおれが潰すだ。
なにが今までサンキュで、川にどぼんだよ。
このナリで家に帰るなんて最悪じゃないか。泣きたいのは……こっちだ馬鹿。健太の馬鹿野郎。けんたの、ばかやろう。