青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
#01. 「嘘でもいいから」
ぼんやりとして宙を見つめていると、頭にぽふっと何かが掛けられた。
今度こそ現実に返り、瞬きを繰り返す。
それがタオルだと気付くのに暫し時間を要した。
真っ白な無地のタオルの端をそっと握り、顔を上げる。
同着で鼻の先に缶珈琲を差し出された。
その腕を辿って視線を持ち上げると、
「奢りだ」
眦を和らげる舎兄が肩を竦めてくる。
近場のコンビニでタオルと珈琲を買ってきてくれたのだろう。
タオルの端を握っていた手を前に出すと、そこに置いてくれた。
じんわりと手の平が温かくなる。
ヨウはホット缶珈琲を買ってきてくれたようだ。
「ありがと」
嗄れた声はヨウに届いたようだ。
「ん」軽い返事をして、俺の隣に腰を下ろしてくる。
自分の分の缶珈琲を開け、口元に運ぶ様は本当に絵になる。イケメンは得ばかりだ。
視線を戻し、手中の缶珈琲を見つめる。
折角ヨウが買って来てくれたのに飲む気にならず、ただ両手でコロコロと擂るように転がす。
やがてその行為にも飽きて、力なく後ろに凭れかかった。
金網フェンスの軋む音が耳につく。
見渡せば、停車している車がずらり。此処は私有地の駐車場だ。
泣き崩れた俺を落ち着かせるために、ヨウが此処まで連れて来てくれた。
外灯に照らし出されている車の不気味さはパない。
まるで俺達を侵入者だと言わんばかりに、ライト部分がこっちにガンをつけている。
くしゅっ、一つくしゃみを零す。
夜風に当たっているせいか寒くなってきた。
「ケイ、ちっとでいいから飲んどけ。気も落ち着くし、体も温まるから」
それまで黙って傍にいてくれたヨウから、優しい気遣いを受ける。
カイロ代わりに持っていた缶珈琲に目を落とし、プルタブに指を引っ掛けてそれを開けた。
一口。
ほろ苦い甘味が口腔に広がる。
比例して温かい。ほんとう温かい。安心する温かさに涙腺が疼く。
振り払うように、片膝を抱いてそこに額を乗せた。
胸に広がるのは大きな痛みと喪失感、そして激しい自己嫌悪。他人に見せた弱い自分への情けなさや、泣いてしまった嫌悪感、これからの未来に畏怖する気持ち。
それらが複雑に絡んでいる。
思いをめぐらせているとおさまりかけた痛みが疼き、落涙してしまう。
馬鹿、折角落ち着いてきたのに、何しているんだよ。
「誰も見てねぇよ」
俺のちっぽけなプライドを一掃してくるのはヨウだった。
頭に手を置いてくる舎兄の優しさに、ついしゃくり上げてしまう。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるヨウの口から、何が遭ったのかと執拗に問われない。それはヨウの優しさであり、気遣いだ。
もしかしたら弥生達から何かしら聞いているのかもしれない。
真実は分からないけれど、こいつの優しさが俺の真新しい傷を癒してくれるのは確かだ。