青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
抜 け る ?
ヨウは人知れず血の気を引かせた。
まさか、ケイはこの機にチームを抜けようとしているのでは。
今回の出来事はケイに相当なダメージを与えた。
チームを抜ける可能性もなくはない。
現にメールの返信が無いのだ。
電話を掛けても繋がらない。
誰も彼もを拒絶している可能性もある。
更に言えば、ケイは向こうのチームの頭に舎弟を誘われている。
それは現在進行形だ。
向こうに中学時代の友人がいるのならば裏切る……ということも。
そこまで考えて首を横に振った。
なんてことを考えているのだ、自分は。
ケイに疑念を抱いてしまうなんて、今までケイの何を見てきたのだ。安易に考えてはならないことだ。
だが、舎兄の自分がそう考えてしまったのだ。
仲間内が疑念を抱くのも時間の問題。
いや、既に疑っている者も出ているかもしれない。
ひとりが不穏な動きを見せるとチームの輪は乱れてしまう。それだけは回避しなければチームとして致命的だ。
追試が終わった今、リーダーの自分が動かなければ、いずれチームの輪の均衡が崩れてしまう。なあなあにしておけない。
「ハジメ、後のことはお前に任せる。今日から数日の日程を、テメェ中心に決めてくれ」
「僕が? そんなこと僕にできるかな」
ハジメはポリポリと頬を掻き弱気な態度を取る。適任だろ、ヨウは微苦笑を零した。
「割り当てはお前の得意分野だろ。弥生の掻き集めた情報を元に数日の日程を決めてくれ。終わったら俺にメールしろ。ワタル、テメェも手伝え」
「それはいいけど、ヨウちゃーんはどうするの? お出掛けするみたいだけどん?」
「俺はシズとケイの家に行く。これ以上、不在にされても困る。いいか、シズ」
「構わないが……」
だったら自分も行きたいとキヨタが名乗りを上げた。
どうしてもケイに会いたいらしい。
そわそわしているココロもまた心配なようだ。
名乗りは上げないものの、行きたそうな顔を作っている。
しかしヨウはそれを許さなかった。
チームメートのことはリーダーである自分と副リーダーのシズが面倒を看る。大勢で行っても迷惑になるだけだ。
一方、チーム自体のことはチームメートに任せても大丈夫だろう。
ハジメは相手の出方をよく考察する奴だし、ワタルもいざとなれば頭脳派に回る。
二人が躓いても響子がサポートしてくれるに違いない。
それに……今のケイは弱っているに違いない。
極端に弱い姿を隠そうとする奴なのだ。
その姿を見てもいいのはチームを纏めるリーダーと舎兄だけだと、ヨウは思っている。
シズを連れて行くのはそういった意味合いがある。
デリケートな問題は互いを傷付け合う可能性もある。仲間内を傷付けるわけにもいかない。
ヨウはシズ以外の同行の許可を下ろさなかった。
「ンと、随分リーダーらしくなったな」
煙草を吸いながら話を聞いていた響子は、ふーっと紫煙を吐き出しヨウに伝言を託してきた。
「ケイに“待っている”と言ってくれ。今回のことは何も咎めやしない。“アンタを待っている”。そうあいつに伝えてくれ」
微笑する響子にヨウは一つ頷いた。
「俺っちも“待っていますから”とお伝えて下さい!」
うわぁああんと嘆くキヨタに苦笑いを浮かべた後、そわそわと落ち着きの無いココロに歩み寄り、軽く肩を叩いた。
「何かあいつに伝言あるか?」
「え?」
ドキッとしているココロは目を泳がせ、あーうーと唸った後、小声で呟いた。
「れ、連絡して欲しいです。心配ですからと……言って頂ければ」
勿論、友達としての意味ですよ。
付け加えて言ってくるココロに笑声を漏らしたヨウは了解したと返答し、シズと共にたむろ場を後にした。
片隅で疑念が芽生えていた。もしかしたらケイはヤマト達のチームに入るのかもしれない、入ったのかもしれない、と。
聞く限り、中学時代に培われた友情は根強そうだ。
向こうの友情の惜しさ故に、自分達に背を向ける可能性だってある。あるに違いないのだ。無いとは言い切れない。