青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「貴方達は勘違いをしています。田山という男を。
あいつは強くもなければ弱くもない。
ただ、自分の範囲内で出来る限りの努力を重ねる。そういう男ですよ。
事情を聴く限り、田山は無理をし過ぎてるんだと思います。
周囲が思う以上に無理に無理を重ねて……ついに自分の中で何かが爆ぜてしまった。そんな気がします。
田山だって器用じゃない。
何かに苦しんでいる時は、周囲に気遣える余裕なんて無いんですよ。連絡を寄こすことも、チームのことを考えることも、自分がどれほど周りに心配を掛けているのかすら、まったく分からない状況なんです。
あいつはきっと悩んでいるし苦しんでいる。自分達が思う以上に。
それでもあいつが周りに気遣いを見せ始めたなら、それはまたあいつが無理し始めた証拠。筋金入りのカッコ付け馬鹿ですから。田山は。
負けず嫌い、と言っても良いかもしれませんね。
何故頼ってくれないのだと思うかもしれませんが、繰り返し言います。田山も器用じゃない。頼ることさえ見えないことがある。
ではその時、自分は何をすべきか?
田山と同じようにカッコをつけて、あいつを支えてやることです。
頼ることを気付かせてやることなんです。
何かあいつが無理して馬鹿なことをしようとしたら、全力で止めたい。
荒川さん、田山はそういう奴ですよ。
あいつが必要以上に無理する時はいつだって友達のためなんです。そして自分のためだって言い聞かせているんです。
そんなあいつを、どうして疑おうとするのか、自分には正直理由が見えません。
少しだけ貴方達に嫉妬を覚えているんですよ。
自分にとってあいつは一番の友。その友が最近こちらに顔を見せてくれない。寂しかったりするものです。
舎弟だから仕方が無いかもしれませんが……それでも自分は胸を張って言えることがある」
険しい顔から一変、彼はどこかしら勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「いつだってあいつを信じている。自分は、最後まであいつを信じきれると断言できるんですよ。
信じられないあなた方のチームとは、舎兄弟とは、所詮そういうものなのでしょうか?
なんにせよ、田山を悪く思うことだけはやめて下さい。切に願います。何か連絡があったら報告しますので。それでは」
呆気取られている不良二人に一礼し、利二は踵返してコンビニの裏口へ戻って行く。
我に返ったヨウとシズは顔を見合わせ、苦々しい笑みを浮かべた。
本当に言ってくれる奴だ。
不良相手に臆せずあそこまで言ってくれるなんて。度胸があると言うか、なんと言うか。さすがはケイのダチ、彼と体を張って喧嘩をしただけある。
何だか悔しくなった。
疑ってしまった自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「なんだよ。俺の立場がまるでねぇじゃねえか」
まだまだ舎兄としても、リーダーとしても自覚が足りない。
力量も不足している。
仰るとおり、舎弟の何を見てきたのだろう。
肩を竦めるシズは「言われたな」舎兄の面目丸潰れだぞ、と茶化してくる。
それには触れないで欲しいものだ。
今、猛省しているところなのだから。
ヨウは気持ちを改めた。
毒言を吐いてきた利二に感謝をしたい。
今の言の葉たちで気持ちが吹っ切れた。疑いの芽が摘まれたのだ。
疑うことはもう止そう。
利二の言うとおり、ケイはメールさえ出来ない状況に陥っているのだ。
部屋で塞ぎ込んでいるのかもしれない。
一番辛い状況に立たせられているのはケイなのだ。
そのケイを支えようとするどころか、疑心を向けてしまうなんて。
「もっかいケイの家に行こう」
ヨウはシズに提案した。
もう一度、居留守を使っている可能性の高いケイの家に行こう。
今度は出て来てくれるかもしれない。
ひょっとすると出掛けていて、その道の途中で出くわすかもしれない。
会えずとも情報をつかめるかもしれない。
彼の家に行けば会える可能性が高くなるのは確かだ。
なんにせよ動かなければ、ケイに会う可能性はゼロなのだ。
だからもう一度、ケイの家へ。