青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「――おぇっ、気分悪っ。まだ胃がムッカムカする。胃液も残ってないっつーの。あははっ、もうダメだぁ、田山圭太お陀仏っす。
ついにお迎えきちまったな圭太! ……あぁーあシンドイ。馬鹿はもうやめよう」
「け……ケイ。マジ大丈夫か? テンションおかしいぞ」
「……ケイ……無理するな」
「あ、大丈夫だいじょうぶ。なんか熱で頭やられてるだけだから。それに、もうまったく吐く物はないから部屋は汚さないって……そっか、みんな、心配してくれているんだな」
無事にトイレから生還したケイはベッドに横たわり、ヨウとシズに視線を投げていた。
部屋には三人しかいない。
浩介は空気を読んで居間に待機してくれたのだ。
こういう時、空気を読んでくれる弟がいると助かるものだと思う。
「寝ながらごめん」
眉を下げるケイは詫びを口にする。
本当は上体を起こしたいらしいのだが、二人が全力でそれを止めた。
寝かせておく方がケイの体に負担が掛からないと踏んだからだ。
先ほどの騒動を目の当たりにしているのだ。起きて話せという方が酷だろう。
繰り返し謝罪をしてくるケイは、元気になったら皆に詫びると約束を結んできた。チームに迷惑を掛けたと思っているのだろう。
しかしこれは事故であり、仕方のない出来事だ。
事情は自分達で説明しておく旨を伝え、安心するように言い聞かせる。
皆もきっと分かってくれるだろう。
「悪かったな、ケイ。押し掛けちまって。入院……しそうって聞いたんだけど」
なるべく相手を刺激しないように気を付けながら、ヨウが舎弟をチラ見する。病人はおかしそうに笑った。
「浩介から聞いただろそれ? 大丈夫、あれは母さんが大袈裟に言っているだけだよ。高熱が続くから検査入院を考えているんだろうけど……熱は八度まで下がったから。今週はちょっと無理そうだけど来週には学校行けると思う。チームにも顔を出せそうだよ」
だから心配しないでくれよ、ケイが柔和に頬を崩す。
ヨウは決まり悪く頭部を掻いた。
「あんまこっちのことは気にすんなって。元気になって顔を出してくれたら、それでいいから。暫くはチームのことを考えなくてもいいんだぜ? 俺とシズで頑張るし。なあ?」
「……ああ。お前は、来たい時に、来ればいい」
ケイの笑みが深くなる。
軽く首を振り、
「気遣ってくれてありがとう」
でも、逃げても一緒だから。舎弟は熱っぽく息を吐いた。
「その様子じゃ皆、健太のことを知ったんだろう? 色々余計な気ィ遣わせちゃったな」
荒呼吸を動作を繰り返すケイは、熱が下がれば何もかも立ち直れると微笑して見せた。
健太のことは諦める。
そう付け足して。
「俺はヨウ達のチームだ。俺はヨウ達を選んだ。そして向こうも日賀野達を選んだ。どーしょーもないし、これは俺自身の問題。チームには関係のない話だ。それより、日賀野達をどうするか考えないとな」
「ケイ……」
「リーダー、そんな顔するなよ。俺は……もう大丈夫だから。ヨウに散々弱音も聞いてもらったし、吐くもん吐いたし、もう大丈夫だよ。言ったろ? 何があっても最後まで俺は舎兄についていくって」
ケイは、また自分達に気遣いを見せた。
ヨウは意表を突かれる。一番傷付いているのはケイではないか。
なのに自分達に気遣うなんて……嗚呼、そうか。
これが五木利二の言う『筋金入りのカッコ付け馬鹿』な面か。
無理をしているのか。
自分達のために、そして自分自身のために。
己に言い聞かせているのか。今の現実を諦めるように。
必死に言い聞かせて、自分達の友情を守ろうとしているのか。目前の舎弟は。
舎弟は弱さを隠そうとすると同時に優しいのだ。
弱さと優しさは違う。
舎弟は並々ならぬ優しさを持っている。人を気遣える優しさを持っている。
そんな舎弟に自分は疑念を抱いてしまったのか。申し訳も立たない。