青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「こ、米粒がッ、まだ米粒が!」

「ククッ、ダッセぇ。ダサ過ぎるッ、ケイっ、お前可哀想なことすんなって」


「俺の、俺のせいじゃねえって! 自己防衛がッ」


ヒィヒィと笑いながら、俺とヨウは赤髪の不良さまを見る。そしてまた爆笑。

俺達の爆笑っぷりに赤髪の不良さまの怒りがMAXになるのを感じるけど、笑いは止められない。

笑い転げそうになる俺達に「コロス!」、赤髪の不良さまが顔を真っ赤にして怒鳴り散した。


近くにいた俺に向かって赤髪の不良さまが蹴りを入れてくる。

俺はヒィヒィ笑いながら、どうにか蹴りを避けた。


けど赤髪の不良さまは、また俺に攻撃を仕掛けてくる。

喧嘩慣れしている赤髪の不良さまと、喧嘩を全くしたことの無い俺との実力の差は歴然。

俺は攻撃を紙一重で避けることしかデキない。


しかも拳の一発が頬擦れ擦れに当たりそうになって、さすがに笑い事じゃないと笑いが引っ込んだ。


拳が掠ったところがヒリヒリするし、ちょっと状況は最悪じゃね? 喧嘩なんてどうやればイイんだよ。


アニメやドラマとかでよく見る殴り合いをすりゃイイのか?

それとも鉄の棒をどっからか持ってきて反撃……鉄の棒なんてどこから持ってくるんだよ。ピンチだ。大ピンチだ。


そうこう考えていたら赤髪の不良さまの拳が右肩に当たりそうになった。


避けるだけで手一杯な俺を助けてくれたのは、この喧嘩の原因を作った俺の舎兄。

赤髪の不良さまの背中に思い切り蹴りを入れて、赤髪の不良さまから俺を逃がしてくれた。

笑いを堪えながらもヨウは、赤髪の不良さまに向かって意地悪く口端をつり上げた。



「負け犬君。俺が相手してやるよ」


「誰が負け犬だゴラァア!」


「吼えるな。もし今度俺に負けたら覚悟しやがれ。それなりのことをしてやっから」



関節を鳴らしてヨウが目を細めて、俺の方を見てきた。



「ケイ。こいつに何かされたか」


「え? あー……そういえば一発、蹴られた」

「じゃあ、その分もまとめてヤッてやるよ。どうせお前じゃ仕返しデキないだろうしな」


仕返しなんて大それたことデキるわけないって!

俺はそうツッコミたかったけど、次の瞬間のヨウの言葉にツッコむタイミングを忘れてしまった。


「こういうのは舎兄のお仕事だしな。舎弟はそこで見学してろよ」


多分、これは俺を気遣ってくれる台詞なんだって思う。

俺、ヨウと知り合って全く時間が経ってないけど、何となくヨウって義理とか人情とか、そういうのを大切にする奴なんだって感じる。


だってさ、成り行きで俺達は舎兄弟になったけど、ヨウが半強制的に俺を舎弟にしたけど、ヨウが此処までする義理って正直無いと思うんだ。

面白半分に俺を舎弟にしたなら、面白い時だけ一緒にいて、面倒な時は首を突っ込まないようにすりゃいいじゃん。



なのにヨウはわざわざ、赤髪の不良さまから助けてくれたり(成り行きだけどさ)、


今こうやって俺が赤髪の不良さまからヤラれた分をヤり返そうとしてくれたり(多分ついでなんだろうけどさ)。


面倒なことも首突っ込んでくれる。


そういえば、俺に礼の品のガムを渡してきた時、ヨウは「不良にだって義理と人情がある」とか言っていたような気がする。


俺達、本当に知り合ってまだまだ日が経っていない。


それでも、こういう事をさも当たり前のようにしてくれるヨウに、何かちょっとだけ俺は感動したし尊敬した。



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