青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「――ごめんなさい。いきなり泣いたりして。本当に……ごめんなさい」
落ち着きを取り戻したココロがしゅんと項垂れる。
迷惑を掛けた気持ちで一杯になっている彼女に、「大丈夫だよ」俺は気にしていないから、と笑いかけ空を仰いだ。
今日はいい天気だ。雲がまちまち見受けられるから、晴天といったところかな。
俺達は今、広場のベンチに腰掛けている。彼女が落ち着ける場所はベンチだろうと踏んだからだ。
目を真っ赤にしている彼女に目尻を下げ、頃合を見計らって自販機から買ってきたレモンティーを差し出す。
ココロは申し訳無さそうに眉を下げた。ほんとに気にしていないのにな。
「無事で良かったよ」
怪我はないか、俺は憂慮を投げ掛けた。
「はい」
小声で返事する彼女がぎこちなく視線を流し、満遍なく俺を見てくる。
も、もーちょい外出する服装を考えりゃ良かったかな。
今の俺はラフなもラフ。ワンポイントが入ったTシャツにジーパン姿だ。
どうせ病院しか寄らないと高を括ったのだけれど、こんなことならもう少し服を考えてくれば良かった……身なりを気にしている時点で色々と羞恥が出てくる。
変なところでココロを意識している俺乙すぎる。
「ケイさん。お体の方は……」
身悶えていると彼女がそっと気遣いを回してくれる。
へらっと笑い、俺はもう大丈夫だと返事した。
「だけど高熱が続いているとお聞きしましたよ……入院するかもって」
ゲッ、ヨウ達、そんなことも話したのかよ。
母さんが大袈裟に話したあれを真に受けやがってからにもう。
「あれは検査入院を視野に入れるかもしれない話だよ。
大した入院話でもないし、俺はもう大丈夫。熱も下がったしさ。念のために病院には行くつもりだけど……ココロは皆のところに行くのか?」
「は、はい……皆さんのところに行こうとしたら、いきなり絡まれてしまって。私、地味ですからヨウさんのお仲間だと気付かれ難いのに今回はばれてしまいました。
それで……その……一緒に来るよう脅されてしまって。恐いと思っていた時にケイさんが助けて下さったんです。本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げてくるココロに、俺は首を横に振って大したことはしてないと返した。
「ケイさんは皆さんのところに?」
そっと質問を返される。
その予定は毛頭なかったために、力なく首を横に振った。
本当はすぐにでも会って謝罪なり、弁解なり、土下座なりするべきなのだろう。
皆はメールで気にしていないと言ってくれたけれど、一報を寄こさなかったのは俺。
それによって迷惑と心配を掛けてしまったのだから顔を出すべきだ。
けれど正直まだ皆に会う段階じゃないと思う。
土日にしっかりと気持ちに整理を付けて、健太との思い出にしっかり錠を掛けて月曜日に改めて皆に謝る。
その流れでいかないと俺は皆に落ち込んでいる姿を見せてしまう。
またいらん気を遣わせてしまいそうだ。
「来れないんですか?」
どことなく落胆した面持ちを作るココロに、「ごめん」と告げ、まだ気持ちの整理がついていないのだと話す。
既に諸事情を知っているであろう彼女は何を言えばいいのか分からずに、口を閉じてしまった。
こういう気遣いをさせたくないから、たむろ場に足を向ける気持ちも遠のく。
「あの、その」
もじもじと指遊びをしている彼女はたどたどしく言葉を紡ぎ始める。
意味の成さない単語を数個発した後、彼女が微笑んだ。
「それが、ケイさんのためなら……私は何もいいません。けれど、もし皆さんに気を遣っているのなら、お顔を見せて下さい」
面食らう。まさかそんなことを言われるなんて。
「皆さん。心配していますから。迷惑より心配の方がヤと言いますか、何と言いますか。誰だって落ち込むことはあります。
私だって今ケイさんに見っとも無い姿を見せました。泣いちゃいましたし、うじうじしちゃいましたし、迷惑を掛けちゃいました。
だけどケイさんは迷惑じゃないと言いました。
それと同じように、ケイさんがいつもの調子でなくとも、誰も迷惑だって思いません。心配はします、でも迷惑だなんて思わないです。
誰にでもそういう時だってあるじゃないですか。ケイさんの気持ちは分かります。親近感を抱いてますし……お気持ちはとても分かります。
けれど皆さんにとってそれは寂しいことだと思います。隔たりを作られた気がして。あの、その、宜しければ一緒に……行きません? 皆さんのところに」