青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
柔和に綻ぶ彼女を恍惚に見つめてしまう俺がいる。
妙に心拍数が上がり一語一句に胸が踊った。
舞い上がっているのだと自覚してしまう。
でも、それが悪い気分ではない。
胸の高鳴りがとても心地良い。ほんとうに心地がいい。
一時的に彼女のことが好きだと思っていたのだけれど、もしかすると俺は自分が思っている以上にココロを意識しているのかもしれない。
「どうでしょう?」
返事を待つ彼女に笑みを返す。自然に表情を崩してしまう俺がいた。
そうだな。
皆のところに少しだけ顔を出してみようかな。
病院に行かなければいけないため、あんまり長居はできないけれど顔くらいは見せようかな。
皆に詫びるくらいの時間はあるだろ。
ピピピッ。
携帯の着信音が聞こえた。ココロの携帯からだ。
慌てて持ち主が携帯に出る。
相手は響子さんらしい。
彼女の名前が口から飛び出ている。
「ごめんなさい。お待たせしていますよね。その、ちょっと不良さんに絡まれてしまいまして。
あ、でも大丈夫です。ケイさんに助けて頂きましたので……はい、はい、ケイさんもいるんです。今からケイさんと一緒にそちらに向かいます。
あああっ、ですけどケイさんは病院に行かないといけないそうなので少し、遅れるかと。私も遅れます」
れ? れれれのれ? あっれー? なんでココロまで遅れる話になっちゃっているのかな?
俺はココロを皆のところに送って、少し顔を出したら病院に行って帰るつもりだったんだけど。あっれー? どーしよう、この流れ。もしかしてもしかすると。
電話を切ったココロは「じゃあ病院に行きましょう」笑顔を向けてきた。つ……付いて来てくれるのかよ。ココロ。
「さすがに付添いは悪い気がするんだけど。ココロ、先に送ろうか?」
「いいえ。病院の方が近いですし……迷惑でなければご一緒に。その、一緒に皆さんのところへ行きましょうと誘ったの私ですから。
け、ケイさんいないと寂しいですし。あわわっ、その、お友達がいないと寂しい……意味ですよ……」
ボッと赤面する俺とココロ。お互いに暫く視線を逸らして沈黙。
えええっと、えええっと、なんでこんな沈黙が下りるんだ。
気まずいというより、ドッキドキっつーかなんっつーか……寂しいと言われて喜ぶ俺って一体。ああもう、意識するな、俺!
「あ、ありがとう」
俺はどう反応を返せばいいか分からなくて、取り敢えず礼を告げた。
「ど、どういたしまして」
ココロはどぎまぎしながら言葉を返してくる。
か、会話が続かない。
嗚呼……静寂。
嗚呼……沈黙。
嗚呼……どぎまぎ。
静まり返る俺等の駅周辺は雑踏に満ち溢れていた。