青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
◇
「――ココロ! 襲われたって聞いたけど大丈夫か?! ちょ、何もされていねぇな?! くそ野郎に触られていねぇよな! ああっ、恐い思いをしただろ? もう大丈夫だからな! うちがシメたる!」
久々のたむろ場に着くや否や、血相を変えた響子さんが俺達の前に現れた。
響子さんは持ち前のフロンズレッド髪を振り乱し、チャリからおりたココロを抱き締める。大丈夫だと返事する彼女がモガモガと腕の中でもがいている。
その様子に気付かない彼女の姉分はがくんがくんと体を揺すって安否確認。
「ほんとうに大丈夫だったか!」
しきりに聞く響子さんは心なしか余裕がなさそう。
珍しい光景だなぁ。
響子さんっていつも余裕たっぷりなお姉さんなのに。
ココロのことを本当に妹のように可愛がっているし、心配でたまらなかったのだろう……ただあんなに揺すられちゃココロも困るだろーよ。
苦笑して姉妹分のやり取りを見つめる。
ココロはどうにか解放してもらおうと必死に腕を動かしていた。
けれど彼女じゃ暴走は止められそうにない。傍観している俺にも無理だろう。
下手に出ても響子さんから拳を頂戴するだけだ。ここはココロの力で乗り切ってもらわないと。
「あーあ。まだ体がだるいや」
首を鳴らし、気だるさを吹き飛ばそうと大きな伸びをする。
あの後、俺は付き添ってくれるココロと一緒に病院に向かった。
診察前に熱を測ってみたら七度七分、また熱が上がっていた。
びっくり仰天だよ。今朝は微熱だったのにさ。
ココロからはとても心配されたのだけれど、原因は分かっている。
これは風邪による熱ではなく、不良達との逃走劇と青春熱の二つだと。
仕方がないじゃないか。
ココロを馬鹿みたいに意識する俺がいたのだから!
ドキドキ熱っつーの? 青春熱っつーの? そりゃ勿論風邪からくる微熱もあるだろうけど原因は他にある。
断言できる。
ココロには言えないけど、熱の一番の原因はココロにある。
(ココロに心配されたら、余計に……な)
俺の心情はさておき、体はとても良好だ。
医者からも回復している傾向にある。
数日間、続いた高熱の後遺症もないだろうと説明を受けた。
念のために一週間分の薬を貰ったから、これを飲んで安静していればすぐに平熱に戻るだろう。良かった良かった。
暴走している響子さんは彼女に任せるとして、俺はチャリを置きに行かないと。
重い体を引き摺って倉庫裏に向かう。
定位置にチャリをとめ、スタンドを立たせていると背中をポンポンと叩かれた。
顧みると構えていた人差し指が頬に突き刺さる……こんなうざったらしいことをするのは。
「ケイちゃーん、お久しぶりんこ!」
やっぱりアータかワタルさん!
黒のレザージャケットを羽織ったオレンジ髪の不良がニッと笑ってくる。
うりうりと頬を突いてくる疎ましさに引き攣り笑いを浮かべつつ、「お久しぶりです」軽く挨拶をした。
どうにか指の突っつく攻撃から逃れるために体を引くと、向こうもあっさり攻撃をやめてくれた。
俺の嫌がる反応を見たかっただけなのだろう。
しごく満足げに口角を持ち上げている。
「あれ。ワタルさんだけですか? 他の皆は?」
そういえば、たむろ場に人気がない。
普段なら誰かしらたむろったり、駄弁ったりしているだろうに、俺が見かけたメンバーは響子さんとワタルさんの二人。
他の面子は何処へ行ったのだろう?