青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
今、俺の気持ちから言えることは二つ。
俺も健太も譲れない居場所があるってこと。
そして俺が健太を未だに友達だと思っていること。
ワタルさんは魚住を自分の手で倒すってケジメを出したように、俺もケジメを付けるためにゆっくりと答えを出していこう。
「ワタルさん、ありがとうございます。気持ちがすっごく楽になりました」
今なら嘘偽りなく笑える。心がすげぇ軽くなった。
今の男前ワタルさんなら信者になってもいいな。
ほんっと男前だよ、ワタルさん。
俺が女だったら惚れちまうかもしれない!
あ、一番は利二だけどな。あいつの寛大な心といったら感涙もんだぜ、マジで。
コロッとワタルさんの表情が変わる。それは普段の生活で目にする、いつものワタルさんだった。
「んっもうっ、ケイちゃーんったら世話焼かすんだからぁ。ケイちゃーんがいない間、ちょっとしたハプニングもあったんだよ」
「え? 何か問題でも?」
ウザ口調に戻るワタルさんは、ケラケラと思い出し笑い。首を傾げる俺を驚かす発言をしてきた。
「舎兄問題勃発したんだって。あのヨウちゃーんに、こう直訴してくる奴がいたんだよぉ。今のヨウちゃーんを舎兄だと“認める”価値もないってさ」
はい? なんだって?
舎“兄”問題? 舎“弟”じゃなくて舎“兄”問題?
「え……そ、それってヨウが俺の舎兄に向かないって……ことですか?」
まっさかなぁ。
俺の舎兄ってば、カリスマ性の高いイケメン不良だぜ?
性別関係なしに心を掻っ攫う憎き男! じゃね、モテ男! そんな男を罵る人間がいるとしたら日賀野くらいなもんだろうけど。
「そっ。あのヨウちゃーんにキッパリ言っちゃった子がいるんだよねん。あの時のその子の顔ったらぁ、思わず僕ちゃーん、惚れそうだったぁ」
パチンとウィンクしてくるワタルさんに俺は素っ頓狂な声を上げた。
ちょ、誰だよ、ヨウにそんな命知らずな発言した奴!
……た、多分、そんな命知らずなことをするのはキヨタ辺りだろうけどさ。
あいつ、俺を極端に慕っているし、俺と健太のやり取り見ていたから……しかも数日間連絡を怠ったから、俺が休んでいる間にヨウに八つ当たりしたんじゃ。
あいつなら有り得る。舎弟問題を起こした原因はキヨタだったしな。
だからって今度は舎兄問題を起こさなくてもいいじゃないかー!
「アァアアアアアアっ、自転車があるぅうううう! ケイさんが来ているっ! ケイさぁああああんん! キヨタっス! 何処にいるんっスかっ、ケイさぁああああん!」
思った矢先にギャンギャン聞こえてくる喚き声。いや鳴き声。
俺とワタルさんは倉庫裏でも人目の付かない倉庫裏の日陰にいる。
だからキヨタが俺を探しているんだろう。何度もキヨタの人の名前を呼ぶ大音声がたむろ場に響き渡る。
「さ、戻ろうか」
能天気に笑うワタルさんはキヨタが凄く寂しがっていた旨を教え、俺の背中を叩いてきた。
き、気が重いな。キヨタに会うの。
あいつ、舎兄問題を起こしたみたいだし。
なんで次から次に問題を起こしてくれるんだよ。
……あ。
「ワタルさん。もう一つ、いいですか?」
先を歩くワタルさんに声を掛ける。オレンジの長髪を靡かせて振り返ってくる彼に質問を重ねた。
「どうして、日賀野じゃなくヨウを選んだんですか?」
足を止めるワタルさんが俺の心意を探るように見つめてくる。
頬を崩したのは直後のこと。
「野暮だろ。それ」
面白おかしそうに笑う彼の口調は、ウザちゃんだったのか、それとも俺サマだったのか。
どちらにしろワタルさんは素で笑っていた。
「あいつのストレートすぎる性格と馬が合った。そんだけだ」