青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
暫く談笑した後、皆は昼食を取るためにたむろ場から出て行く。
俺は皆とは別行動。
皆と昼食を取るまで体が回復していないんだ。
一緒に行きたい気持ちもあるけど、遺憾なことに診察代分しか金持ってきていない。
ココロに紅茶を奢るくらいの金はあったけど、もうすっからかん。
チームメートは昼食後、久々にゲーセンにも行くらしい。
それについて行ける体力もないと踏んだ俺は、今日は此処でバイバイ。
真っ直ぐ家に帰ろうと思う。
「またな」
大事をとって日曜の集会には顔を出さないつもりだから、次に皆に会うのは月曜日だ。
手を振ってチャリに跨る。
そのままペダルを踏んでチャリを前進。
「ケイさん」
丸び帯びた声が後ろから飛んできたため、自然とチャリが止まる。
振り返ればココロが駆け寄って来た。
彼女は今日のお礼をもう一度言いたかったらしく、俺の前に立つや否や頭を下げてきた。
「今日は本当にありがとうございました」
「ううん。大したことはしていないよ。たまたま病院に行こうとしてた時に絡まれていたココロを見つけたから。でも良かった、何もなくて」
目尻を下げると、満面の笑顔を作る彼女がそこにはいた。
「ケイさん、ヒーローみたいでしたよ。あんな風に助けられるなんて夢のよう。私、とても嬉しかったです」
高鳴る鼓動をそのままに俺ははにかんでみせる。
純粋に嬉しかった。
彼女の真摯な言の葉が、気持ちが、笑顔が。
ココロの新たな一面を見たせいで、余計に意識する俺がいた。
あーもうっ、自分が意識していると自覚しているからこそ、心音が煩くて仕方がない。
自制が利かないほど俺は彼女を意識している。
このまま自分の気持ちに背を向け続けられるだろうか?
「それと泣いてしまって、ごめんなさい……ケイさんを困らせてしまいましたよね」
一変してションボリと落ち込むココロを恍惚に見つめていた俺だけど、
「気にしてないよ」
泣いたことに対して何も気にしてないと微笑んだ。
「でもさ」
言葉を重ねる。
「ココロに泣き顔は似合わない。俺は笑っている顔の方が好きだよ」
こっそりと意図した告白する気持ちは彼女に届かないだろう。
それでいい。
これは俺の気まぐれだ。
呆けるココロの表情に見る見る陽が射し込む。
長い睫を震わせ、頬を紅潮させて、嬉しそうにうんっと頷いた。
「ケイさんも、たむろ場に来てから表情が変わりました。やっぱり私、いつも笑っているケイさんが好きです」
俺の抱く好意と彼女の抱く好意の意味は違うだろう。
それでも嬉しかった。彼女に好きと言われて、とても。
「ん、ココロが誘ってくれたおかげだよ。気も晴れた。ありがとな」
「いいえ、少しでも元気になってくれて嬉しいです」
心臓が嫌ってほど高鳴っているけど、気付かない振りをする。
どさくさに紛れて告白したくせに、俺はこの気持ちの名に対して気付かない振りをする。
分かっているのに気付かない振りをするのは、彼女を困らせたくないんだ。
ココロは真っ直ぐに笑っている方が可愛い。
「ココロ、そろそろ行くぜ」
向こうで仲間と待っているヨウに呼ばれて、「はい」ココロは慌てたように返事する。
「それじゃ」
頭を下げてヨウ達の方に駆けるココロに手を振り、そして向こうにいるヨウ達にもまた手を振ってチャリを漕ぎ始める。
ヨウに呼ばれた時のココロの顔、すっごく好い笑顔だったな。
彼の下に駆けている間、ずっと笑顔だった。
本当に好きなんだろうな、ヨウのこと。
……ちょっと複雑だけど実るといいな、ココロの恋。ほんっとヨウの奴羨ましいよ。
あ、しまった。
ヨウに舎兄問題のことを聞きそびれた。まあいっか。月曜日にでも聞こう、舎兄問題。
(笑っている方が好き、か。なるべく笑うようにしなきゃな)
俺はチャリをどんどん加速させ、真っ向から吹く風を感じることにした。
気付かぬ振りをするその気持ちを散らすように、風の中に溶け消えてくれるように、チャリをかっ飛ばす。
微熱帯びた体がまた更なる熱を帯びてきたけど総無視することにした。