青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
………ど、どえりゃーことになっているじゃあーりませんか。
利二、不良相手にそんな騒動を起こしたのかよ。
あいつのことだから不良に物を言うだけでも恐くて仕方が無かっただろうに。
でも俺をそうやって庇ってくれたんだな、あいつ。
俺がいつも相談するから……利二は誰よりも心配性だもんな。
後で利二と話してみよう。まずはヨウをどうにかしないと。
食いかけのコンビニ弁に蓋をしながら、利二の騒動を詫びた。
原因は間接的にでも俺にあるのだから。
「ごめん、ヨウ。利二は……俺のことを心配してくれるが故にそんなことを言ったんだと思う。
でもな、ヨウ。俺はヨウが舎兄に相応しくないなんて思ったことないよ。今回のことだって仕方が無いじゃないか。俺が連を絡入れなかったのが悪いんだし」
「いや」
ヨウは空になったコンビニ弁を無造作にビニール袋へと入れ込む。
俺の詫びを受け取ってくれなかった。
舎兄は腰を上げて、二、三歩、前に出るとキラキラと太陽光の反射で輝く川面を見つめた。俺はそんな舎兄を見上げるしか術を知らない。
「そうやって俺を甘やかしてくれるから、俺は手前に結構甘くなっていた。前々から自覚はあった。俺はテメェにばかり頼っている節がある。
ケイ、テメェは舎弟になった日から俺に『舎弟って何すりゃいい?』と度々聞いてきたな」
「う、うん。聞いたけど」
「俺はその時、その場その場で適当な返事をしていたと思う。
そんでもテメェは舎弟として、何をすべきか、何が自分にできるか、いつも行動していた
。考えてみりゃいつもそうだった。
舎弟問題が起きても、テメェは舎弟として何をするべきか、いつも念頭に置いてた。舎兄弟になったのはノリ。
だから俺はテメェみたいに舎兄として何が出来るか、一度だって真剣に考えたことはなかった。
テメェとは真逆だな。
俺はどっかで思っていたのかもしれねぇ。舎兄弟っつーのは舎弟が常に何かしてくれるもんだろ。いざとなりゃ喧嘩で前に出るくれぇだろって」
語り部の背中を見つめる。
プライドの高いイケメン男が俺に自分の嫌な一面の心境を語るだなんて不思議な光景だ。
「今回が初めてだった。舎兄として何をすべきか、こんなにも考えたのは。俺なりに真剣に考えてみたよ。
正直、俺は喧嘩くれぇしか取り得がねぇ。
何ができるか……頭を捻っても出てきやしねぇ。
取り敢えず俺は前にテメェに背中を預けるっつったから、今度はテメェが俺に背中を預けろっつー考えが浮かんだ。
けど、なんかしっくりこねぇ。ンなの当たり前の領域だって思ったんだ。そんな時、五木に言われて気付いた」
地面に転がっている小石を拾ったヨウは軽くそれを投げて掌でキャッチ、投げてはキャッチ、投げてはキャッチ。
刹那、川に向かって投げた。
ピッ、ピッ、ピッ、ポチャン――。
水面を跳ねながら小石は川に沈んでいく。
ヨウはまた小石を拾って川に向かって投げた。
今度は水面を跳ねることなく、水音を立てながら川に沈んでいく。
一連の流れを見守りながらヨウはブレザーのポケットに手を突っ込んだ。
金髪が穏やかに吹く風によって靡く。それは大層絵になる光景だった。
恍惚に見つめてしまう。
「俺はもう二度と舎弟を疑わねぇ。誰がなんと言おうと、テメェを信じることに決めた。例えば仲間が疑念を抱いても、俺は最後の最後まで舎弟を信じる。
舎弟が舎兄を信じて最後までついて行くっつったんだ。
俺も舎弟を信じる抜くことにした。
喧嘩しか取り得ねぇ俺だからこそ、舎兄が舎弟にできることは誰より手前の舎弟を信じることだって気付いた」
「ヨウ……」
「ケイ。俺はテメェに約束する。何が遭っても信じ抜くって。その第一歩として俺を殴ってくれねぇ? 俺なりの詫びをさせて欲しい」
振り返ったヨウが俺に笑顔を向けてくる。
疑った詫びを此処でさせて欲しい、そう言ってくるイケメン不良に俺は目を点にする他無かった。