青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―







「――利二~~~! お前、ヨウから聞いたぞ。なに男前で馬鹿なことをしてくれちゃっているんだよ!

たむろ場という名の戦場に自分から行って、ヨウと話すどころか喧嘩をしちまうなんて捨て身にも程があるだろ!

本気で俺を惚れさせるつもりか?!
俺が女だったらお前、絶対狙っちまうぜ! もう俺と結婚するか、なあ!」



「悪いが自分は女が好きだ。いつまでも好(よ)き友人でいよう」


「馬鹿たれ! 真面目に返事をするんじゃない! 俺だって女が大好きだっつーの!」



放課後。

学校に戻った俺は午後の授業を真面目に受け(ぎりぎり昼休みが終わる前に戻って来れた!)、帰りのSHRが終わるや利二の席に突撃した。

バンバンと机を叩きながら舎兄問題について詰問するけれど、

「落ち着け」

利二はいつもどおりの対応。

涼しい顔で手早く通学鞄に教科書やらノートやらをつめている。


「おい利二」


焦燥感を抱きながら声を掛けると、努めて冷静な利二が不機嫌そうな顔をして視線を投げてきた。


「べつに荒川と喧嘩をしたわけじゃない。少し文句を言っただけだ」


その、行為が、命知らずと言うんですよ利二さん!

喚いても相手の態度は変わらない。何処となく冷ややかに鼻を鳴らす。


「不良に文句を言ってはいけない法律が何処にある? 不良はそんなに偉い存在か?」

「お、お前は平和主義ジミニャーノだろ! かの有名な悪童のヨウに舎兄失格なんて……俺を庇ってくれちゃってさ。この男前! 地味のクセにやることカッコイイんだよ!」


「褒めてくれているのか、それ」


不機嫌から一変、相手がいつもの顔に戻る。
苦笑いを浮かべる利二は肩を竦めて、自分でもやらかしたと思っていると吐露。

けれど後悔はない、彼は言葉を重ねた。


「思ったことを言っただけだ。友人の疑いは聞いていて気分が悪い」


ヨウのことを思い出したらしく、また利二は不機嫌な面を作る。

俺のためとはいえ、ここまで機嫌を損ねている利二を見るのも初めてだ。


俺と喧嘩した時でさえ、こんな顔を作ったことはなかったのに……まずはお礼からかな?


疑惑を掛けられていた俺を庇ってくれたんだし、友達のために捨て身でヨウに物申してくれたんだ。


ここはやっぱり“ありがとう”という言葉が適切なんだと思う。


一つ、微苦笑を零して相手の首に出を回す。

作業の手を止める友人に向かって思いっきり笑ってやった。


「ありがとうな。疑いを掛けられた俺を庇ってくれたんだろ? すっげぇ男前なことを言われたってヨウから聞いた。馬鹿だな、不良相手に……でも、ほんと、ありがとう」


間を置いて利二も綻ぶ。


「勝手なことをしただけだ」


そう言って、素直に礼を受け取ってはもらえなかった。

でも、どこかで気持ちは受け取ってくれたみたい。表情は限りなく柔らかい。


「田山、お前は裏切るような男じゃない。馬鹿のカッコつけだが、お前はそういう男じゃないんだ。それを知っているから、自分も不良相手にカッコつけてみたくなった。腹が立ったのは本当だしな」


「……利二」


「お前の努力は誰よりも陰から見守っているつもりだからな。自分のことのように腹が立った。こんなこと、学生生活で殆どなかったのに」


疑念を掛けられていると知ったその瞬間、頭に血がのぼってしまった。


別に殴られてもいい。

傷付いたっていい。

無様にやれてもいい。


言いたいことをぶつけただけなんだと利二。


「勝手な事をした自覚はある。だからお礼なんて言われる覚えはないんだ。お前のカッコつけが感染ったのかもしれないな」

一呼吸置き、語り部は話を続ける。


「言っただろ田山。お前が不良と絡んでいても……不良になったとしても変わらず接してやると。お前がどんな目に遭ったとしても、自分は離れていかないさ。できることはしてやりたい。それくらいのカッコをつけても良いだろ?」


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