青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
男気溢れた利二の言の葉に、ぐっと胸が締め付けられてしまう。
感極まって繰り返す呼吸に苦しさすら覚える。
なにより胸が熱い。
俺は健太との友情を切り捨てたばっかだ。
なおざりでも手放さなければならなかった友情に未練はたらたら。
傷はちっとも癒えていない。
癒える手段を見つけるスタートラインに立ったばっかだ。
だからってわけじゃないけど、利二の思いやってくれる気持ちがすごく嬉しい。発してくる言葉一つひとつが特効薬みたいに心痛を緩和する。
「さんきゅ」
振り絞るように出す声は教室の喧騒に溶け消えていく。
情けないことに上擦った声が出た。
体も、すこし震えた。
それに気付かない振りをしてくれる利二は、
「無茶だけはするなよ」
俺の心身を案じてくれる。
「無茶をしたから体を壊したんだろ。無理だと思ったらいつでも逃げて来い。誰も咎めやしないから」
「あんま喜ばせるなって。俺、友情に関しちゃ涙もろいことを知っているだろ? そのうち、ほんとに逃げてくるぞ。おまけ付きで厄介事を運んでくるぞ?」
「いいさ。嫌ってほど厄介事に付き合ってやる。仕方ないからな」
「おっとこまえ過ぎ!」
涙目状態の俺はそれを悟られぬよう回している腕の力を強くする。
やっぱり利二は俺の心のオアシスだ。
話せば話すほど、荒れた心が癒えていく。俺に何があったか、その詳細は知らないだろうに、こうも親身に言ってくれる。
嬉しくないわけないだろ。なんかもう、俺が女だったら絶対狙っているのにな!
容姿普通だけど、性格は特上Sクラスだと思うぜ! 女子がどう思ってるかしんないけどさ! とにもかくにも利二との友情に乾杯なんだぜ!
苦しいと文句垂れてくる利二を解放して、
「嬉しかった」
俺は繰り返し礼を言った。
馬鹿で無茶な事をしたなって思うけど、利二が俺のために起こしてくれた行動は嬉しかった。それは本当の話。嬉しかったよ、利二。
忘れ物がないかチェックし、利二と共に人が疎らになった教室を出る。
利二とサシで話したかったから、ヨウ達には先に行っててもらった、の、だけれど、まさかの事態が発生。
「よっ、来たか」
なんと正門前に舎兄がいた。
どうやら俺を、いや“俺達”を待ってたみたいで、待ちくたびれたと微笑を向けてくる。
あっ気取られる俺を余所に、利二は完全にスルー。
俺に「またな」と挨拶をして、さっさと不良の脇を通り過ぎた。
ちょ、利二、利二さん!
脇目も振らず不良を通り過ぎるなんてお前、どんだけ肝の据わった持ち主?!
平和をこよなく愛するジミニャーノのくせに、そんな強気の態度を取るなんて。
やっぱりお前はヨウを完全に避けちまっているだろ!
ヨウも気付いているぞ、お前が避けていることに!
「ま、待てって利二」
俺の声には反応。
「また明日な」
言葉を返すのに、不良の視線は無視。無視。むーし!
ヨウと会いたくないっていうか……喋りたくないのか?
そりゃ面と向かって舎兄失格と言ったんだから、話し辛いのは分かるけどさ。
そこまで極端にヨウを無視しなくてもいいんじゃね?!
イケメン不良くんをそんなにも無視したら日陰男子の俺達なんて女子達から猛抗議ものだぞおい!
慌てる俺とは対照的に、ヨウはやれやれと言わんばかりに肩を竦めると先にたむろ場に行ってくれるよう頼んできた。
サシで話したいらしい。
頼まれちゃ頷くしかないけど大丈夫かよ……ヨウと利二の奴。
あいつ等は大切な友達だ。
二人の仲に亀裂が走るのは気分的に宜しくない。
しかも舎兄問題が勃発しているわけだから、俺に関係ない話じゃなくて。
「ど……どーしよう。ちょ、俺、どーすればいい?」
つくねんと残された俺はチャリに跨ることもできず、後を追うヨウの背中と、先を歩く利二の背中をいつまでも見つめていた。