青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
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――変わる契機をくれた友人が離れていくかもしれない。
不良と関わり始めたケイの様子を常に見守っていた利二は心の隅で翳を抱いていた。
同時期、荒川庸一が友人に疑念を持つ。
ショックと共に腹立たしくて仕方がなかった。
辛い小中時代を送っていた利二にとって、ケイはようやく出逢えた心許せる友人なのだ。
そんな友人を当然のように奪い、有意義な時間を過ごしていたくせに、何かあれば糸も容易く疑念を掛ける。
腹立たしく思えた。
疑いを掛けられた友人のことは勿論だが、醜い嫉妬心が爆ぜた。
だから利二はヨウに対して必要以上のことを言ったのだ。
彼の仲間の前で舎兄失格だと。
後先考えず、はっきり、そして感情のままに吐き捨てたのだ。
言ったことに悔いはないが一抹の反省を抱いている。
何処かで言い過ぎたと自覚はしていた。
しかし止めようがなかったのだ。
すべて本音だからこそ、疑念を抱いた舎兄にぶつけるしか術はなかった。
今も何処かで嫉妬心が渦巻いている。
何も恋愛感情だけに嫉妬心が芽生えるなんて思わない。
誰かはその長けた能力に嫉妬し、誰かはその周囲を魅了する美貌に嫉妬し、誰かはその誰からも愛される人気に嫉妬する。
同じように絡み合う友情にだって嫉妬というものは存在すると思っている。
利二はそんな醜い嫉妬心に駆られてしまったのだ。
口が裂けても友人には言えないが。
「田山は、自分を変えてくれた。だから、当然のように隣に立っている貴方が羨ましくて堪らないんですよ」
現実に返った利二は苦々しい笑みを浮かべ、肩を竦める。
「必要以上にあいつと関わろうとするのは、何処かで繋ぎ止めたい自分がいるのかもしれません。自分を必要としてくれたあいつを、誰よりも必要としているのは結局自分なのだと思います」
カッコつけるふりをして、友人を助けるつもりをして、本当はすべて自分のためかもしれない。
冷静に自己分析した利二はまた一つ自嘲を零し、目前の不良に視線を投げた。
「貴方にとって田山は必要な存在ですか?」
問い掛けると、
「ああ。必要だ」
間髪容れずに不良は返事する。
それは能力的な意味合いか、はたまた人数を補うためか、質問を重ねると彼は意を込めて答えた。
「んにゃ。きっと五木と同じ理由だ。あいつとつるんでいてオモレェ。舎兄弟の前に俺達はダチだから」
微かに利二は表情を崩す。
「田山の努力を見てくれさえすれば、自分は何も言うことはありません。
今は貴方を舎兄だと認めませんが、認めたくもありませんが……いつか、貴方を舎兄だと認めたい。それもまた本音です。当ってしまい、すみませんでした」
嫉妬心をぶつけてしまったことを謝罪し、利二はヨウに背を向けて歩き出す。
キョトン顔の不良が素っ頓狂な声を上げ、前に回ってくる。
まだ何か用があるのかと首を傾げる利二に、
「俺。まだ何も言ってねぇよ!」
とイケメン不良。
自分だけ言ってトンズラするなとツッコんできた。
一息つき、彼は真っ直ぐ見据えてくる利二に断言してくる。
もう舎弟を疑わない、と。
「どんなことがあっても舎弟を誰よりも信じる。俺はそう決めた。それが舎兄のできるってことだって気付いた。
俺は馬鹿だから、喧嘩以外ろくなことはできねぇ。
ケイみてぇにチャリや土地勘に長けているわけでもねぇし、頭使うのも得意じゃねえ。
寧ろ、考えて行動するっつーのは苦手だ。
そのことでチームにも迷惑を掛けている。ケイにも迷惑掛けている。俺は手前の思う以上に欠点だらけの舎兄だって気付いた」
そんなケイが自分をサポートできるほどの力量を持っているのは、利二の言うとおり、ケイが陰で並々ならぬ努力をしてきたからだとヨウ。
自分もケイも欠点だらけの舎兄弟だが、決定的に違う箇所がある。
それは手前の欠点を改善しなかったところ。
ケイは己の欠点を他の何かでカバーしようとしていたのだ。
おかげで自分はケイに助けられる場面が多い。
文字通り、ケイは荒川庸一の“舎弟”として顔が立ってきた。
ケイは気付いていないだろうが、“舎弟”が板についてきた。