青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「五木、テメェに言われて俺、気付いた。馬鹿な舎兄の俺でもできること……やっと気付いたんだ。俺はもう二度とケイを疑わねぇ。

俺を信じてついてきてくれるあいつを、俺は誰よりも信じる。

それこそ仲間が疑いを掛けても、俺はあいつを最後の最後まで信じようと思う。

それがダチの……んにゃ、俺なりの舎兄が舎弟にできることだ。

ケイの一番のダチのテメェに、どーしてもこれを言っときたかったんだ。俺がこれに気付いたのは五木、テメェのおかげだから」



だから追って来たのだとヨウは柔らかに綻ぶ。


静聴していた利二は軽く目を閉じ、ゆっくりと笑声を零して目を開けた。


「それを聞いて安心しました」


素直な気持ちを告げる。


すると不良がこんなことを申し出てきた。



「五木、テメェさ。俺等のチームに正式に入らね?」



利二は面食らってしまう。

まさかこの場面でスカウトされるとは思いもしなかった。


「俺たちに手ぇ貸してくれてるじゃんか?」


ちゃんと仲間に紹介したいし、チームとして、そしてダチとしてつるんでみたいとヨウが口角を緩める。


なにより、自分に対して真っ向から意見する度胸を持っているところが気に入った。

それがこれからチームにとってもプラスとなるだろう。


ヨウは熱弁した。


不思議な奴だと利二は思ってならない。

たった今、相手に対して辛らつな言葉や醜い感情を曝したというのに不良はもろともしない。


(――ああ、そうか)


この寛大さがチームの頭として皆に慕われる理由か。

不良のくせに不良らしくない奴だと利二は思う。


「申し出は嬉しいですが、遠慮させて頂きます。貴方のチームに入れば、今の自分の役目が消えてしまいますから。

自分の役目は貴方達にこっそりと情報を提供すること。
チームメートじゃないからこそ、手に入る情報があると思いませんか?

自分は陰から田山の、そして貴方のチームをサポートしようと思いますよ」


「そっか……んじゃ仕方ねぇな。
けどよ、今度チームメートに紹介させろよな?

なんたってお前は自分達のチームに手を貸し、堂々意見してくれる地味くん。

紹介しないと罰が当たりそうだ。なにより、いつか舎兄と認めてもらわないと」


ヨウの言葉に利二は微笑を返し、会釈して今度こそ歩み出す。

先程と違い、足取りも気持ちも軽かった。 



「いーつき! 俺はテメェが羨ましいぜ」 



瞠目。

振り返る間もなく、ヨウは声音を張って言葉を続けた。


「ケイは俺等に一線引くこと多いけど、テメェには一線も何もねぇ。舎兄に一線引いて、ダチのテメェに何もないって嫉妬するぜ。ケイは誰よりもテメェのことを必要としているぞ」 


笑声を含みながら不良は来た道を戻って行く。

足を止めて去るヨウの背を恍惚に見つめていた利二は、小さなちいさな微苦笑を零した。

あの不良はお互い様と言ってくれているのだろうか。



つくづく器の大きい不良だ。



本当は先程の言葉で認めている。


友人に相応しい舎兄だって。


あんなにクサイ、そして真摯な答えを導き出す不良なのだ。


癪だから、まだ口に出して言ってやらないが、荒川庸一は田山圭太に相応しい舎兄だ。


でも今はまだ言ってやらない。言ってやらないのだ。


悔しい気持ちを噛み締めたのだ。

それくらいの意地悪は許して欲しい。


< 374 / 845 >

この作品をシェア

pagetop