青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「僕が不良になったのは中学時代。
中一の夏休みに不良になろうと決めた。夏休み入る直前にヨウと出逢った。


それまでの僕はケイのようなタイプ。とても地味で大人しかったんだ。


ま、今でこそこんなナリだけど、これでも小学校低学年から塾に通わされていた優等生くんでね。塾クラスでは常に首位争いに参戦していた。


僕の両親はどちらとも弁護士でさ、子供の頃から“弁護士になれ”と言い聞かされて育ったんだ。

自分達がエリートだから、子にもエリート道に進ませたかったのかもしれないね。


純粋だった子供の頃は親に従って学校終了後、塾に道草食わず向かっていたよ。

言うことを聞くこと、期待に応えることで、両親は喜んでくれるんだって思ってたし。


だけど歳を重ねるにつれて、僕はその生活が窮屈になった。 


同級生は放課後になると友達と自由奔放に遊べるのに、なんで僕はまだ勉強しているんだろう。


将来のためだと親は言うけれど、それは自分達の勝手な言い分。

僕の自由を奪ってまで将来のためだなんて、それは本当に僕自身のためなのだろうか?


僕だって遊びたいし自由にしたい、その言い分は親の前じゃ通らなかった。

今のうちに他の子と差別化しておけば後が楽になる……とか言われ続けた僕は、ついに親へ反発の念を抱くようになった。


これが俗に言う反抗期、かな。

小六の冬だった。


反抗期を迎えた僕は私立中学の入試に失敗した。

正しくは失敗するよう僕が殆ど白紙で出したんだ。

親には体調不良だったとか言い訳を付けてね。


こうして僕は市立中学に入学したんだけど……相変わらずの日々だった。

塾漬けの日々。
ウンザリだったけれど、臆病な僕は親に面と向かって反抗する勇気はなかった。


ああ、でも態度では反抗を示していたよ。

勝手に髪の色を茶に染めたりとかしてね。

それだけで親は血相変えて、凄く楽しかった思い出がある。


親に逆らう楽しさを覚えたんだ。

今までいい子ぶってた反動かもしれない。


ただそれ以上のことはできなかった。根はチキンなんだろうね。


そんなある日、僕はたまたま同じクラスだったヨウと話す機会を掴んだ。


というのも、ヨウの数英の出来の悪さに、担任が僕に勉強を教えてやれと命令してきたんだ。

既に不良だったヨウに対し、僕は優等生くん馬は合わないだろうなっと思っていた。


中身地味優等生でも、表向きは茶髪に染めているから、ある程度はどうにかなるだろうと思っていたけれど不良と馬が合うとは考えられなかった。


素行の悪いヨウのことだから僕との勉強をすっぽかすだろう、なんて軽く見ていた。

それを理由に僕も早々帰宅を目論んでいたっけ。


ところがどっこい、ヨウはちゃんと勉強会に出席してきたんだ。


あいつ義理がたいだろ?

勉強を看てくれる僕に気を遣って、ちゃんと出席してきたんだ。不良なのに。


こうしてヨウと話す機会を設けることができた僕は、かったるいと愚痴を零すヨウに勉強を教えていた。


けれど、次第に勉強に飽きたヨウが世間話を振ってくる。

それに乗ってしまった僕は勉強そっちのけで彼と大いに盛り上がった。


中でも身内に対する愚痴大会は祭囃子のように盛り上がったよ。


僕とヨウは意外な共通点があった。


それはお互いがお互いに親へ不満を抱いていること。


当時、“ただの金髪”に染めていたヨウは、親をビビらせるために髪をキンパにしてやったんだと得意げに話してきた。

僕もそう、茶髪に染めたのは親をビビらせるためだと笑い話にした。


すっかりヨウと意気投合した僕は、彼に今までの親の不満とか、塾漬けの日々とか、勉強の束縛に息苦しさを覚えるとか、思うが儘に吐露した。


聞いてくれるだけで十分だったんだけど、


「ハジメとは気が合うな。俺とつるまね?」


ヨウは僕を仲間に誘ってくれた。



親に対する反抗心に理解を示してくれた彼は、髪の色をもっとド派手にしてみればいい。そうしたら親はもっとビビるに違いない。そんな助言をしてくれた。


乗った僕は今のシルバーに髪を染めたし、僕もヨウに「メッシュ入れたらイケるんじゃない?」と助言したから、ヨウは金髪に赤のメッシュを入れた。


お互いに両親を困らせるための、ちょっとした反抗。

ヨウのところは知らないけど、僕の両親は昇天しそうになっていたよ。


不良とつるみ始めたと知るや否や、両親はすぐに関係を絶つように命令。勿論嫌だって反抗したし、塾にも通わなくなった。



僕は親不孝者かもしれない。 



けど子供にも言い分がある。両親は知らないだろうけど、僕は子供らしい時間を過ごせなかったことが悲しくて仕方が無かった。


勉強ばかりで自由のなかった日々。


両親は僕のためだと言い聞かせてくれたけど、結局のところはエリート道を進ませた息子を自慢したかっただけなんだ。


子供の自由を根こそぎ奪うっていうのはある意味、心を失くすのと一緒だと、僕は思う。


自分が好きでしているならまだしも、僕の場合強制だったから……このまま両親の言うことを聞いても、自分が本当の意味でダメになる。そんな気がした。


仲間に誘ってくれたヨウには凄く感謝しているんだ。

やっと親から解放され、自由になれた。


皆と同じように心ある日々を過ごせる。


ワタルや響子、シズにモト、沢山の仲間にも恵まれた。ケイにも出逢えた。仲間に誘ってくれたヨウには感謝している。だけど――」


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