青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
長い長い思い出話を口にしていたハジメは苦々しく、そして辛そうに笑顔を浮かべる。
「僕は時々思うんだ。此処にいても良いのかって」
間髪容れず、俺はハジメに意見した。
「なんでだよ。喧嘩ができないからか?
そんなのちっとも理由にならないって。
それだったら俺だって此処にいても良いのか? イケていない地味っ子が不良チームにいても良いのか? そう悶え苦しんでいるって」
ハジメはかぶりを左右に振った。
喧嘩ができないだけじゃない、チームに何もできない自分がいる。それがとても不甲斐ない、と。
「僕は喧嘩のできないメンバーの中でも、何もチームにしてやれていない。
グループだった頃からそうだ。
ケイには長けた土地勘と自転車の腕。弥生には広範囲な情報網。
ココロには皆を気遣える配慮。それによって皆、救われる面が多々ある。
でも僕はどうだろう?
グループに迷惑をかけてばかりだ。
何もできやしない。なんて言うのか……劣等感ばかりが支配してくるんだ。
チームを結成してからその思いの丈は強くなるばかりで。
さっき浅倉が弱小の不良達ばかりが自分のチームにいると言っていたね。
あれを聞きながら僕はこう思ったんだ。僕もまた、弱小不良に入るんだろうな。
自分を卑下していた。
僕は僕に自信が無いのかもしれない。
塾に通っていた頃、僕は講師から「勉強のできない奴は落ちこぼれだ」と、よく言い聞かされていたんだけど、その言葉が恐怖になっていたんだ。
まるでお前は社会のゴミだと言われているみたいだから。
小さい頃から熱弁されていたら、当然それは呪詛の言葉にもなるよね。
そして僕は今、不良のおちこぼれなんじゃないかと思わずにはいられない。
ヨウも仲間達も、僕にとって大事な居場所だからこそ……ケイ、僕はただ単に喧嘩ができないから悩んでいるんじゃないんだ。
仲間にもチームにも何もできない、自分の存在価値に疑念を抱いているんだ」
一呼吸を置き、語り部は諦めたように目元を和らげた。
「ケイ、僕はチームを抜けようかと考えているんだ。この頃よく考えている。お荷物と足手纏いにだけはなりたくないから」
ハジメの言葉に俺は瞠目せざるを得ない。
なあハジメ……お前はそんなにも悩んでいたのか?
独りでそんなにも悩んでいたのかよ。
チームを抜けようと思い詰めるまで、苦悩していたのかよ。
なら、どうしてそれを誰かに相談しないんだよ。
俺もすぐに皆と一線引くから人のことは言えないけどさ、そんなにも苦しんでいるなら、ヨウ達に相談だってできただろ?
お前は俺よりもヨウ達と付き合い長いじゃないか。
呆気に取られていた俺だけど、
「そんな理由じゃリーダーは許してくれないぞ」
顔を顰めて吐き捨てた。
「俺だってさチャリがなかったら、何の取り得もなくなる奴になる。
あ、習字が取り得としてあるけど……チャリがなくなったら喧嘩さえもできない地味平凡男だ。ハジメ、お前と同じになるんだ。
だけどヨウにそれを言ってチームを抜けようとしても、あいつは許してくれない。馬鹿言うなって一蹴されるのがオチだ」