青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



相手は目尻を下げて、「ありがとう」俺に礼を告げてきた。


チームを抜けない。


はっきりとは言わなかったけど、吐露したことでつっかえていた何かは取れたみたいだ。


それだけで俺は十分だ。

ハジメの表情が和らいだ、それだけで今は十分だ。


そう思うのは、俺もまたハジメのことを友達だって思っているからだろうな。  




と。




次の瞬間、ハジメの頭に何かが飛んできて、コツンとイイ音がした。


「アイタ」


隣人が軽く右頭部を押さえた。何が飛んできたんだと首を傾げて、飛んできた物を拾う。俺も覗き込んで見る。

うーんと……リップクリーム?

ほのかに苺の香りがするらしい。


野郎が持つもんじゃないよな。

ということは、これを飛ばしてきたのは……。



「ハジメのバーカ!」



ハジメにけたたましい罵声を浴びせてきたのは弥生だった。

いつの間にいたんだ、弥生の奴。


薄っすらと頬を紅潮してハジメにガンを飛ばすや否や、バーカを連呼。舌を出してくる始末。

どうやら俺等の話を一部始終盗み聞きしていたらしい。何度もバーカと連呼、連呼、れんこ!


「そうやってウジウジと考えてチームを抜けると思うなら、私、ヨウにチクっちゃうからね! チクっちゃうんだからねー!」

「ちょ、弥生! それは勘弁っ、あぁあ待てったら弥生!」


今の心情をリーダーにチクられるのはばつが悪い。

ハジメは慌てて倉庫に向かって駆ける弥生の後を追った。

「勘弁してくれよ」

ハジメは弥生に追いつくと手首を掴んで、それだけはやめてくれと懇願。

知らないとそっぽ向く弥生はフンと鼻を鳴らしてむくれている。

「ハジメが撤回するまでチクりに行くもん」

脹れる弥生に、

「チクられるのだけはほんと勘弁」

ハジメが必死に止めていた。


「ハジメはチームに必要なんだからね。馬鹿! 阿呆! うじ虫!」

「や……弥生。そんな大きな声で……うん、でもありがとう。少し自信を無くしていただけだから」


馬鹿じゃないの、弥生はまた一つ悪態をつく。でも微かに毒気が消えている。

ごめんごめん、ハジメは微笑を零した。


そして礼を言っていた。ありがとう、と。



べっつにいいんだけどさ、なーんだ、この蚊帳の外。疎外感。向こうのイイムード。あぁああ、別に妬みじゃないぞ、ないんだぞ。



でも……でも、なんか羨ましいような気がするというかなんというか。そういやハジメと弥生って、よく一緒にいるよな。


もしかしてもしかするとあれか? あれなのか? 友達以上恋人未満の関係を築き上げているのか?


フッ、それはそれで羨ましいぜ。俺は女の子とそんな関係すら築き上げたこともねぇやい!

勿論、男とはアッツーイ友情かましているけどさ!

女のことそういう友情は皆無! 女の子自体縁が無かった俺、残念過ぎる!



……自分で言うのも何だけど、むない。



はぁーあ。溜息をつき力なく金網フェンスに凭れ掛かって、和気藹々と喧嘩もどきのやり取りをしている弥生とハジメを見守る。


弥生はハジメと話している時が、一番生き生きとしているように見える。


なんっつーか、女の子らしい可愛さが全面に出ている気がする。

ハジメに対して口は悪いけど。ハジメも弥生と話す時は、ちょっと優しくなる。甘えてもいいよオーラが出るというかさ。


いいよなぁ、こう……傍から見て両想いになっている奴等って。

< 393 / 845 >

この作品をシェア

pagetop